「“百合”を軸に、女の子たちの心が通い合う物語を描きました」声優・赤尾ひかるが女子校生活に着想を得て執筆…処女作『甘い制服をまとって』発売記念インタビュー

「“百合”を軸に、女の子たちの心が通い合う物語を描きました」声優・赤尾ひかるが女子校生活に着想を得て執筆…処女作『甘い制服をまとって』発売記念インタビュー

甘い制服をまとって(角川書店単行本)
甘い制服をまとって(角川書店単行本)

2022年に「第16回声優アワード」にて新人女優賞を受賞。その後も多数のアニメやゲーム作品で主要キャラクターを演じるなど、第一線で活躍する声優・赤尾ひかるさん。そんな赤尾さんの作家デビュー作となる小説『甘い制服をまとって』が、2026年7月31日に発売された。女子校を舞台に展開するガールズラブコメディであり、少女たちの繊細な心の揺らぎを丁寧に描き出した本作について、執筆の経緯やキャラクター造形のこだわり、赤尾さん自身がもっとも注目してほしいポイントなどを語ってもらった。


■声優・赤尾ひかるさんインタビュー
声優・赤尾ひかるさん
声優・赤尾ひかるさん


――小説を執筆することになった経緯を教えてください。

【赤尾ひかる】もともと朗読劇の脚本を書いており、ほかにも趣味で小説も書いていました。小説のことは誰にも言っていませんでしたが、朗読劇のアフタートークでその話をしたところ、マネージャーが「小説、書きたいの?」と言ってくれて。本当に趣味のような感覚だったのですが「書いてみたい」という気持ちが勝り、勇気を振り絞って「はい」と答えたところ、いっしょに動いてもらえることになったんです。そして、それまでに私が書いた脚本や、書き溜めていた短い文章をKADOKAWAさんに持ち込ませていただき、書籍化に至った…というのが経緯になります。

――自分から持ち込みをされていたとは驚きです。ちなみに『甘い制服をまとって』という物語の着想は、どのようなところから生まれたのでしょう?

【赤尾ひかる】着想は、やはり私自身が中学・高校と6年間、女子校に通っていたことが大きいです。そこで見聞きした経験が活かされていますね。じつは、これまでに手掛けてきた朗読劇の脚本も、すべて百合の要素が入っています。私は百合の要素がないと描けないといいますか、お話を考える際は“百合要素を入れること”をモットーにしていて。「百合を軸に、女の子たちの心が通い合う作品を作ること」が作品執筆の原動力になっています。

――タイトルに込めた意味や思いについても、お聞かせいただけますか?

【赤尾ひかる】まずタイトルの「甘い」の部分ですが、こちらは“マシュマロ会”というサロンがメインの物語になりますので、マシュマロの“甘さ”がーつ。そして、女の子同士の心が通い合う“甘い雰囲気”が楽しめる…という意味合いも含めて、「甘い」というワードを選びました。さらに作中では、次々にイベントが起き、そのたびに女の子たちは制服のほかにもさまざまなユニフォームを着こなすことになるので、「制服をまとって」という言葉をつなげました。これらを組み合わせて、今回のタイトルに落ち着いたという次第です。

それともう1点、“まとって"の部分ですが、こちらは最初、漢字で"纏って"になる予定でした。ですが、担当編集さんが「甘くてかわいらしい、優しい雰囲気を出すならひらがなの方がいい」と言ってくださって。「たしかにその通りだ!」と思い、漢字ではなくひらがなにした…というのも、タイトルを考えるうえで語りたいエピソードの一つです。

――本作の舞台である「私立セレーネ女学園」の空気感や日常の描写に、赤尾さんご自身の女子校生活での経験はどのように活かされていますか?

【赤尾ひかる】学園に対する女の子たちの思いの描写には、自身の経験が活かされていると思います。学校が大好きな子もいれば、そうした強い思い入れはなく、ただただ通っている子もいます。なかには学校が好きすぎて、先生として戻ってこられる人もおり、さまざまな形の“学園愛”を見てきたので、そこで感じた思いはしっかり盛り込んでいるつもりです。

それと、10代の女の子ならではの“感情の振れ幅”も目の当たりにしてきたので、そのあたりの描写にもこだわっています。一人ひとりの心の成長スピードや、心の距離感、こういう言葉を使ったら、誰がどんな反応をするかなどです。すべてがそのままではないですが、それに近い経験はしたことがあったので、それを演出や表現に取り入れており、そこもおもしろさを感じてもらえるポイントではないかと思っています。

■こだわりは“女の子と食べ物”の組み合わせ

――赤尾さんは本作を「純愛、執着、友情」という言葉で表現されていますが、これらの要素は、物語の中ではどのような形で描かれているのでしょう?

【赤尾ひかる】この3つの言葉に共通するのは“好き”という感情だと思っています。“好き”という気持ちがあるうえで、それが3つのうち、どれになるかは、その子の性格や生まれ育った環境、心の振れ幅によって変わるものだと思うんです。書いている側からすると、それぞれがうまく役割を分担してくれたといいますか。どの形の愛を背負うかというところで、それぞれの個性を表現してみました。

――「放課後、生徒にマシュマロを配るだけ」というマシュマロ会のユニークな設定は、どのようにして生まれたのでしょう?また、マシュマロをモチーフに選んだ理由を教えてください。

【赤尾ひかる】本作に限らず、私が今までに書いてきた作品はすべて、“女の子(百合)×食べ物”をモットーにしています。「調査隊員とりんご飴」や、「天使と和菓子」、「女子高生とハンバーガー」、それから「花屋さんとワッフル」など、お話に合わせていろいろな食べ物を組み合わせてきました。女の子がいっしょに何かを食べている姿は和やかといいますか、すごく可愛いんです。私の中で百合と食べ物はワンセットになっているので、読み終わった後に「マシュマロが食べたいな…」と思っていただけたらすごくうれしいですし、今回もそこはブレずに、お菓子をテーマに書かせていただきました。

そして、マシュマロをモチーフに選んだ理由は安易で恐縮ですが、「語感が可愛かったから」というのがいちばんの理由になります。とはいえ単純にそれだけでもないので、最後まで読んでいただければ、マシュマロを選んだ理由がわかっていただけると思います。

――主人公・犬甘ゆらと、「白薔薇会を潰す」という目的を掲げる美雪姫奈は、それぞれどのような思いから生まれたキャラクターなのでしょう?

【赤尾ひかる】誰の中にも、ゆらのようなところはあるのではないかと思っています。頼まれると断れなかったり、自分の意見が言えず、周りに流されてしまったり。環境や状況によるところも大きいと思いますが、そういった要素を具現化したのがゆらなんです。そして、そんな主人公を困らせるといいますか、さまざまなトラブルを起こしてゆらを振り回すものの、その根底に優しさがありつつ、私的な部分も垣間見える存在として、美雪というキャラクターを登場させました。そんな2人が出会い、心が揺さぶられる出来事が次々に起こる。ゆらと美雪のキャラクター像は、そういった女の子たちの関係性を描きたいところから思いつきました。

■少女たちの関係性の変化、心の動きを楽しんでほしい

――声優として数多くのキャラクターを演じてこられた経験が、本作のキャラクター造形やセリフの書き方に活かされたと感じる部分はありますか?

【赤尾ひかる】「この子は何を考えていて、どう喋るんだろう?」といったように人物像を掘り下げていくことは、普段の声優としての活動の中でもよくあることなので、キャラクターへの寄り添い方には“声優であることの経験”が活かされていると思います。主要なキャラクターに関しては、大量の情報をまとめたプロフィール資料を個別に作りました。プロットや原稿とは別にそうした資料を用意したのも、声優あるあるのような気がします。

――プロフィール資料について、もう少し詳しくお聞きしたいです。

【赤尾ひかる】 声優のお仕事をしていると、企画書といっしょに演じるキャラクターについてまとめられた分厚い資料をいただくことがあります。そこには公表されている情報のほかに、作中では語られない生い立ちなどがまとめられていることもあるんです。オリジナル作品であれば「この女の子のイメージはこのキャラ」と、他作品のキャラクターを参考にしていることもあります。 それを整理しながら、演じるキャラクターの理解度を深める作業が当たり前の感覚なので、「こんな資料があった方が、意図が伝わりやすいはず」と思い、パワーポイントにまとめて提出させていただきました。

――初めて小説を執筆する中で、もっとも苦労したことと、反対にもっとも楽しかったことを教えてください。

【赤尾ひかる】 もともとは趣味で書いていた小説が、実際に皆さんのお手元に届く作品になるということで、責任のあるものに変わったとき、取り組む姿勢も大きく変わった気がします。声優業と日々の家庭に費やす時間の中で、私自身も作品を大切にしたいからこそ、執筆のための時間はしっかり確保するよう意識していました。その調整はたいへんでしたが、作品を書いている間はとても楽しく、本当に充実した時間を過ごさせていただきました。

苦労したエピソードとしては、私はパソコンの操作がすごく苦手で…。書き進めていくと、いつの間にか文字がーつ抜け落ちていた…ということが何度もあり、執筆中は常に自分自身に対して「ふがいない」「腹立たしい」という気持ちでパソコンと向き合ってました。逆に楽しかったことは、やっぱり各キャラクターの見せ場のシーンを書くときです。自分でも驚くほど筆が進み、そのシーンを書き終えたときの達成感は格別といいますか。自分の中で思い描いていた“キラキラしたもの”をすべて出せたので、仕上がりにはたいへん満足しています。

――ネタバレにならない範囲で、読者に特に注目してほしいシーンや本作の魅力を教えてください。

【赤尾ひかる】まずはなんといっても、館田ダン先生が描いてくださった口絵や挿絵のイラストが見ていただきたいポイントの一つです。そして、ゆらと美雪の駆け引きや、追いかけっこをしているような雰囲気も楽しんでいただけるポイントだと思っています。2人の関係性がどんな速度で、どのように変わっていくのかにも注目していただきたいですし、ゆらたちだけでなく、本作にはかわいらしい女の子がたくさん登場しますので、そんな彼女たちのいろいろな表情も楽しんでいただけると思います。それぞれの心の動きもしっかり描いており、読み応えのある1作に仕上がったと思います。

――最後に、ファンや読者の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

【赤尾ひかる】男女問わず、気軽にお手に取っていただけたらと思っています。「こんなことあったよな」など、学生時代を思い出しながら読んでいただくのもいいですし、「こんなふうに楽しんでみたかったな」と想像を膨らませながら読んでいただくのもおもしろいと思いますので、大勢の方に読んでいただいて、感想を聞かせていただけるとうれしいです。



取材・文=ソムタム田井
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