子どもに授乳するため、商業施設の授乳室の前で順番を待っていたときのことです。使用中の札がかかった個室は15分経っても空かず、ドアの向こうからは授乳やおむつ替えとは違う音が聞こえてきました。腕の中の赤ちゃんがぐずり始め、意を決して声をかけると……。
ドアの向こうから聞こえてきたのは
子どもへの授乳のため、商業施設の授乳室を訪れたときのお話です。ドアには使用中の札がかかっていたので、ドアの前で並んで待つことにしました。
ところが、10分経っても15分経っても、中の人が出てくる気配がありません。それだけならまだよかったのですが、耳をすませると、中からパタパタ、カチャカチャという小さな音が聞こえてくるのです。授乳やおむつ替えのときに出る音とは、明らかに違います。ふと、お化粧でもしているのだろうかと思いましたが、まさか授乳室でそんなことはしないだろうと、半信半疑のまま待っていました。
そうこうしているうちに、腕の中の赤ちゃんがぐずり始めました。中からは相変わらず小さな物音が続いていて、授乳やおむつ替えをしている様子ではありません。もし何か別のことをされているのなら、少しかわってもらえないかという思いもあり、「すみません、待っているんですが……」とドアの外から声をかけてみたのです。
しばらくして開いたドアから出てきたのは、若い女性でした。手には小さなメイクポーチを持っています。それを見て、さっきの音はやはりお化粧の音だったのだと確信しました。どうやら、この個室を化粧直しの場所として使っていたようなのです。授乳室でお化粧、と頭ではよぎっていたものの、まさか本当にそうだとは思わなかったので、正直とても驚きました。女性は気まずそうに会釈をして、足早に去っていきました。
赤ちゃん連れにとって、授乳室は本当に切実で必要な場所です。落ち着いてお化粧をしたい気持ちもわからなくはありませんが、鍵のかかる個室だからこそ、本来それを必要としている人のことを少し想像してもらえたら、と思わずにはいられませんでした。
この出来事があってから、私自身も共有スペースの使い方をあらためて意識するようになりました。誰かがその場所を待っているかもしれない。そう考えるだけで、行動が少し変わる気がしています。あの日のことは、自分の振る舞いを見直すきっかけになりました。
著者:三輪田千里/30代女性/男の子ふたりを育てる母。会社員として働いている。趣味はドラマ鑑賞。
イラスト:はたこ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年7月)

