写真提供:PIXTA
毎年のように日本列島に大きな被害をもたらす台風。2026年はエルニーニョ現象の影響などにより、例年以上に台風の接近が多くなると見込まれており、本格的な台風シーズンに向けて早めの備えが必要です。
台風への備えを考える際、「雨の量」や「風の強さ」ばかりに目を向けがちですが、命や財産を守るために同じくらい重要なのが「風の向き」です。台風が近づくコースや位置関係により、吹いてくる風の向きは大きく変わります。そして、どの方向から風が吹き付けるかによって、被害を受けやすいエリアも大きく変化します。
今回は、台風の風の吹き方の仕組みと、風向きの変化を意識した具体的な事前対策について解説します。
台風の風の吹き方
出典:気象庁「気象衛星ひまわり」※筆者が加工
台風は、中心にある「台風の眼」に向かって、外側から反時計回りに強い風が吹き込む性質を持っています。このため、大まかに見ると台風の風の向きは以下のようになっています。
・台風の北側:東寄りの風
・台風の西側:北寄りの風
・台風の南側:西寄りの風
・台風の東側:南寄りの風
なお、台風の中心にある眼では風が弱く、風向きも定まらないのが特徴です。
台風の風で気をつけるポイント
台風の被害を少しでも抑えるためには、風の性質や変化のパターンを知っておくことが重要です。台風の風は、進行方向によって強さが変わったり、通過するタイミングで向きがガラリと変わったりする性質があります。ここでは、台風の風で気をつけたい3つのポイントを解説します。
危険半円
台風の進行方向に向かって「右側」のエリアは「危険半円」と呼ばれ、特に風が強まりやすい性質があります。これは、台風自体が前進するスピード(移動速度)と、台風に向かって反時計回りに吹き込む強い風の向きが一致して、風が相乗効果で強まるためです。
イラスト:筆者作成
イラストのように、台風の進行方向右側では台風の進む方向(青い矢印)と風向き(赤い矢印)が同じになっています。イメージとしては、動く歩道(台風の移動速度)の上を同じ方向に歩く(台風の風)ようなもので、スピードが足し算されて風が強まります。
一方、進行方向左側では、台風の進む方向と風向きが逆になっています。イメージとしては、動く歩道を逆走するような感じになり、風が相殺されて右側ほどは強くなりません。
台風の移動速度が速くなればなるほど、相対的に台風の進行方向右側の風はさらに強くなります。
ただし、進行方向左側であっても暴風が吹いていることには変わりありません。地形によっては左側に入る方が風が強まるようなケースもあるため、どちら側であっても油断せず注意が必要です。
台風通過前後の風向き変化と吹き返しの風
台風が最も接近する前後は、風向きが急変するのが大きな特徴です。特に、台風の眼に近いところが通過すればするほど、この通過前後の風向きの変化は大きくなります。例として、2018年9月に四国に上陸した「台風21号」が、室戸岬のすぐ近くを通過した際のデータを見てみましょう。
出典:気象庁「台風経路図 平成30年(2018年)」
| 時間 (2018年9月4日) |
海面気圧(hPa) | 風向き | 風速(m/s) |
| 3時 | 1000.1 | 東 | 12.3 |
| 4時 | 998.6 | 東 | 12 |
| 5時 | 997.4 | 東 | 13.7 |
| 6時 | 995.2 | 東北東 | 14 |
| 7時 | 991.4 | 東北東 | 18.1 |
| 8時 | 987.1 | 東北東 | 20 |
| 9時 | 977.2 | 東北東 | 27.2 |
| 10時 | 960.3 | 東 | 35.7 |
| 11時 | 955.3 | 西北西 | 16.4 |
| 12時 | 968.7 | 西 | 47.7 |
| 13時 | 980.9 | 西南西 | 40.5 |
| 14時 | 988.2 | 西南西 | 30.4 |
| 15時 | 992.4 | 西南西 | 26.1 |
気象庁の過去の気象データ検索(室戸岬(高知県))をもとに筆者が作成
台風の眼のすぐ近くが通った室戸岬では、通過前にずっと東寄りの風が吹いていたのが、中心が近づいた11時を境に一気に西寄りの風へと180度近く変わっています。台風の中心から離れた場所では風向きはなだらかに変化しますが、このように眼の近くが通過する場合は、短時間の間に風向きが真逆になります。ちなみに、台風の中心が通過したあとに逆方向から吹きつける風のことを「吹き返しの風」と呼びます。
風速の急激な変化により、それまで建物の陰で風が弱かった安全な場所も、次の瞬間には暴風が吹きつける危険な場所に変わることがあります。また、風が吹いてくる方向に海がある場合は、海面が吹き寄せられることで、高波や高潮のリスクも高まります。台風の中心が通過した直後に海から吹く風に変わるような場合は、急に高波や高潮が発生することもあるため注意が必要です。
台風の風は中心に近いほど強い
先ほどの室戸岬のデータで見られた風速の変化にも注目してください。一般的に、台風で最も強い風が吹くのは台風の眼のすぐ外側です。実際、台風の眼が接近する直前の10時に東風35.7m/s、接近直後の12時に西風47.7m/sを記録しています。また、風速の時系列を見ても台風の中心が近づくほど急激に風が強まっていることがわかります。
台風の暴風域に入ったばかりの段階ではさほど風が吹いておらず、「今回はたいしたことない」と感じるかもしれません。しかし、同じ暴風域内であっても台風の中心が近づくにつれて急激に風が強まるため、台風が離れるまで油断は禁物です。
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風向きの変化は時系列予報をチェック
台風による風向きの変化や強まるタイミングを把握するには、気象庁などが発表する地域時系列予報を活用するのがおすすめです。
出典:気象庁「地域時系列予報」
時系列予報では、時間ごとの天気や気温だけでなく、風速や風向きの移り変わりが矢印のマークで分かるようになっています。台風が近づく前にこの予報をチェックしておけば、「何時ごろから風向きが真逆になるか(台風の最接近は何時頃か)」「いつ吹き返しの暴風が強まるか」を事前に予測できます。
沿岸にお住まいの方は、高潮や高波に備えるためにも、海側から風が吹いてくるかどうかも事前に確認し、高潮などの恐れがある場合は早めに安全な場所に避難しましょう。
台風の風に備えるための事前対策
台風による被害を防ぐためには、風が強まる前、そして風向きが変わることも見越した事前の対策が不可欠です。具体的なポイントをまとめました。
・家のまわりの物を片付ける・固定する
ベランダや庭にある物干し竿、植木鉢、ゴミ箱などは、暴風で飛ばされると危険です。室内に取り込むか、移動できないものはロープなどで頑丈に固定してください。
・すべての窓のシャッターや雨戸を閉める
「こちらの面は建物の陰だから大丈夫」と思っても、台風の中心が通過すれば風向きは変わります。多方向から暴風が吹きつける可能性があるため、家のすべての窓のシャッターや雨戸を完全に閉め、ロックを確認してください。
・窓ガラスの飛散防止対策をする
雨戸やシャッターがない窓には、内側から窓ガラス用の飛散防止フィルムを貼っておきます。万が一、飛来物でガラスが割れた場合でも、破片が飛び散って大怪我をするリスクを減らせます。また、カーテンやブラインドは閉め切っておきましょう。
いずれの場合も、風が強まる前の明るいうちに対策を完了させ、台風が完全に遠ざかるまでは安全な室内で過ごすようにしてください。
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<執筆者プロフィル>
田頭孝志
気象防災アドバイザー(国土交通大臣委嘱)
田頭気象予報士事務所代表。愛媛の気象予報士・防災士。防災や気象関連の記事執筆をはじめ、テレビ番組の監修、防災教材開発などを行う。BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数、防災マニュアルの作成に参画。
