
動物に好かれる――そんな夢のような体質を持つ人がいたら、誰もがうらやましいと思うかもしれない。しかし、生活に支障が出るほど動物たちに愛されてしまったら話は別だ。漫画家・NANNOさん(@nanno_koresiki)が描く「動物にモテるサラリーマンの受難」シリーズは、動物から異常なほど好かれる主人公・半田の日常を描いたシュールな作品。山奥の新店舗への転勤を命じられた半田の前には、当然のように動物たちが集まり始める。個性的なキャラクターと予想外の展開が話題を呼んでいる。
■「自分から発信する作品を」異色のサラリーマン漫画



京都府在住のNANNOさんは、29歳のときに英語力ゼロの状態からヨーロッパへ社会人留学。その経験を描いたコミックエッセイ「社会人留学は自分を救う?」で漫画家デビューを果たした。もともとはデザイナーや商業イラストレーターとして活動していたが、「誰にも頼まれていない自分発信の作品を作りたい」と思ったことが漫画制作のきっかけになったという。
「昔から憧れていた漫画を一度本気で描いてみようと決めました。そこから漫画を描く練習を始めて、『動物にモテるサラリーマンの受難』も練習の一環で描き始めたもの。拙くてもとにかく世に出そうと思い、2018年秋頃からSNSに投稿し始めました」
■設定を「山」にした意外な理由
シリーズ誕生のきっかけは、意外にも「背景を描くのが難しかったから」という理由だった。「このシリーズを描き始めた時、コンセプトとか深く考えていませんでした。ただ、当初はパースがかかっているような背景をちゃんと描けなかったので、『難しい背景が出てくる話はやめよう』とだけ決めていました(笑)。その時に住んでいた家の近くにハイキングができるような小さな山があって、『山の中の話だったらギリ描けるかも』ということで山奥に行く話に決定しました」
しかし、実際に描き始めると半田はなかなか山奥へたどり着かず、会社の背景まで描くことになったというオチも。そんな制作過程から、動物に愛されすぎるサラリーマンという独特の設定が生まれた。
半田は多くの動物から好かれる一方で、大好きな猫からはなぜか好かれない。「考えてみれば、私自身が割と動物好きだったり、鴨川へ行けばカモのお尻ばっかり見ていたり、逆に猫は懐いてくれないツーンとした子が好みだったりするので、己の欲望が投影されたのかもしれません」
■作者の想定を超えた“ほっこり”評価
作品の中でNANNOさんが特に気に入っているのは、13話で半田がカモのために白菜を置いて帰る場面だという。スーパーまでついてきたカモを川へ返す際、食事用の白菜をそっと残していく半田の優しさが描かれている。
読者からは「やさしい」「ほっこりする」といった感想が寄せられたが、作者本人は意外な反応だったようだ。「読者の方から『やさしい』や『ほっこりする』というコメントが多く届いて、『え、ほっこりするの⁉』ってなりました。それまで自分的にはこの作品は尖ったギャグ漫画だと思っていたので、周りから見たら“ほっこり”なのかと驚きました(笑)」
一方で、半田が働く会社の部長については、作者のお気に入りキャラクターながら読者からは厳しい声が届いたという。「私は半田が働く会社の部長みたいなクズキャラが見ている分には結構好きでお気に入りキャラだったりするのですが、『部長最悪』『こういう人マジで無理』など割と辛辣な意見が多くて、そっちでも『そうなの⁉』ってなりました(笑)」
■自分だけが描ける漫画を追求
NANNOさんが大切にしているのは、周囲の評価だけではなく「自分にしかできない漫画」を描くことだ。「イラストレーター時代にクライアントの言う事を聞きすぎて自分の絵がなんなのかよく分からなくなった苦い経験があるので(笑)。漫画では同じ失敗を繰り返さないように気を付けています」「動物にモテるサラリーマンの受難」は、試行錯誤しながらも自由にのびのび描いている作品。今後もそのスタイルを大切にしていきたいと語った。
山奥への転勤をきっかけに、ますます動物たちとの距離が近づいていく半田。歩けば後ろには動物たちの列ができるという異常事態の中、果たして猫と心を通わせる日は来るのか。そして山奥で“普通の生活”を送れる日は訪れるのか。今後の展開にも注目したい。
■取材協力:NANNO(@nanno_koresiki)
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