糖尿病による慢性的な高血糖は、全身の血管を徐々に傷つけ、動脈硬化を進行させます。この変化は脳や心臓だけでなく、脊髄に血液を送る細い血管にも及ぶ可能性があります。このセクションでは、糖尿病が脊髄の血流にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムをわかりやすくご説明します。脊髄は「前脊髄動脈」「後脊髄動脈」と呼ばれる細い血管から酸素と栄養を受けています。慢性的な高血糖が続くと、血管の内側をコーティングしている「血管内皮細胞」が傷つき、血小板が集まりやすくなって血液が固まりやすい状態が作られます。この状態が血栓の形成を促し、脊髄の血管を塞ぐ原因になりえます。さらに、普段から糖尿病をお持ちの方の場合、「糖尿病性神経障害(末梢神経が傷ついて起こるしびれや感覚の鈍化)」と脊髄梗塞の初期症状がよく似ているため、「いつもの症状だろう」と自己判断されるリスクがあります。
両者の決定的な違いは「発症のスピード」です。糖尿病性神経障害が徐々に進行するのに対し、脊髄梗塞は数分〜数時間で急激に悪化します。背中や首の痛みを伴う突然のしびれや脱力を感じたときは、すみやかに専門の医療機関へご相談ください。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脊髄梗塞の原因:血管・血液・周辺構造からのアプローチ
脊髄梗塞は、さまざまな原因によって脊髄への血流が絶たれることで発症します。原因は大きく「血管そのものの問題」「血液の問題」「脊髄周辺の構造的な問題」の3つに分類して考えることができます。このセクションでは、それぞれの原因について詳しく説明します。
動脈硬化・血栓・塞栓による血管の問題
脊髄梗塞の原因として比較的よくみられるのが、動脈硬化に伴う血管の問題です。動脈硬化が進むと、血管の内腔(内側の空間)が狭くなり、血液が通りにくくなります。さらに、動脈硬化によって生じた血管壁のプラーク(粥状(かゆじょう)の脂肪性沈着物)が剥がれることで血栓(血の塊)が形成され、脊髄の血管を閉塞することがあります。
塞栓(そくせん)とは、血液の流れに乗って運ばれてきた血栓や脂肪の塊が血管を詰まらせる現象です。心臓の不整脈(特に心房細動)によって心臓内に血栓が生じ、それが脊髄の血管に達して閉塞を引き起こすケースも報告されています。
大動脈(だいどうみゃく)の疾患も、脊髄梗塞の重要な原因のひとつです。大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)の破裂や解離性大動脈瘤(かいりせいだいどうみゃくりゅう)が起きると、脊髄に血液を送る分枝血管(ぶんしけっかん)への血流が急激に低下し、脊髄梗塞が発症することがあります。また、大動脈の手術中や手術後に脊髄への血流が一時的に途絶えることで、合併症として脊髄梗塞が生じるケースもあります。
低血圧・血流低下・脊髄周辺の構造的要因
血管が詰まるだけでなく、全身的な血流の低下によって脊髄梗塞が引き起こされることもあります。長時間にわたる血圧の低下(低血圧)は、脊髄への血液供給を不十分にし、梗塞のリスクを高めます。重症の出血、敗血症(はいけつしょう)、重篤な心疾患による心拍出量の低下などが、このような全身的な血流低下をもたらす原因として挙げられます。
脊髄周辺の構造的な問題も見逃せません。椎間板(ついかんばん)ヘルニアが重篤な状態になると、脊髄に血液を供給する血管を圧迫して血流を低下させることがあります。また、脊髄に栄養を与える血管(栄養血管)の奇形(きけい)や、動静脈瘻(どうじょうみゃくろう:動脈と静脈の間の異常な連絡路)が存在する場合にも、脊髄梗塞が起きやすくなることが知られています。
さらに、医療処置に伴う合併症として脊髄梗塞が起きることもあります。脊髄や脊椎の手術、血管造影検査、硬膜外麻酔(こうまくがいますい)などの際に、意図せず血流が阻害されることがあります。こうした医療関連の脊髄梗塞は、事前のリスク評価と手術前後の慎重な管理によって、できる限りリスクを低減することが目指されます。
まとめ
脊髄梗塞は、急激な背部痛・麻痺・感覚障害・排尿障害といった症状が特徴で、発症後の迅速な対応が回復の可否に関わります。糖尿病をはじめとする生活習慣病がリスクを高めることから、日頃からの血圧・血糖・脂質の管理が予防の鍵となります。少しでも異変を感じた場合は、脳神経外科への早めの受診を心がけてください。
参考文献
厚生労働省「糖尿病の合併症 | 健康イベント&コンテンツ」
日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイドライン2024」
- 佐藤弘道「脊髄梗塞」で絶望。「完治しない病」と闘う現在の姿とは
──────────── - 「中性脂肪を下げる3つの野菜」はご存じですか?注意点や食べ方のコツも医師が解説!
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