
見上愛と上坂樹里が主人公を務める連続テレビ小説「風、薫る」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)が現在放送中。同作は、看護師という職業の確立に大きく貢献した実在する二人の人物をモチーフに描く、看護の世界に飛び込んだちょっと型破りな二人のナースの冒険物語だ。
明治時代、西洋から伝わった看護学を学ぶ人々は“トレインドナース(正規に訓練された看護師)”と呼ばれ、医療看護の世界に新風を起こした。同じ看護婦養成所を卒業した一ノ瀬りん(見上)と大家直美(上坂)の二人が、患者や医師たちとの向き合い方に悩み、ぶつかり合いながら成長し、やがて“最強のバディ”となって世界を切り拓いていく姿を描く。
りんが再び看護の世界へ戻る決意を固め、物語も佳境を迎える中、WEBザテレビジョンでは主人公・一ノ瀬りんを演じる見上愛にインタビューを実施。俳優として大切にしていること、役作りや現場への向き合い方などを真摯に語ってくれた。
■「正しさとは何だろう?」葛藤と共に育まれた、りんのしなやかな強さ
――「風、薫る」の物語も佳境を迎えていきます。撮影を重ねる中で、ご自身が演じる一ノ瀬りんという人物の印象に変化はありましたか?
最初はすごくのんびりとしていて、思ったことを正直に口に出し、間違ったことは嫌いと、自分を貫く人物の印象でした。見た目は「ふわっとしている」ように見えて実は芯の強い人物なのではないかと思って演じていました。
ですが、りんも看護婦としていろいろなことを経て、考えが変化していて、そもそも正しさとは何かを考え、正しさは一つではないと気付いていく。さまざまな困難を経験する中で、自分がどれほど恵まれていたかを知り、成長していくりんの姿を肌で感じています。
――変化していくりんを表現する上で、どのようなアプローチを心掛けていましたか?
“朝ドラ”は映画のように全編の脚本が完成してから臨むのではなく、撮影を進めながら新しい台本が上がってくるスタイルです。先の台本がない中で演じているからこそ、新しい台本をもらうたびに「あ、りんってこういうところがあったんだ」「こういうことを言うんだ」という発見が毎回あります。だからこそ、事前にキャラクターを決めすぎないことをこの作品では大事にしています。
また、監督が交代しながら撮影を進めていく中で、りんという役柄もそうですが、りんと娘の環、りんと直美(上坂樹里)といった周囲の人物との関係性の捉え方に、キャストやスタッフ間で微妙な認識の違いが生まれることもありました。話し合ってすり合わせていく難しさはありましたが、皆さんの話を聞く中で「りんをそういう風に捉えていたんだ」「こういう人物にしていきたいと思っていたんだ」と知ることができ、勉強にもなりました。

■25年の自分の枠を超えていく――自分と役を重ねない役作り
――“朝ドラ”の現場だからこそ得た、俳優としてのスキルや学びはありますか?
普段はしっかりと脚本を読み込むことを一番大事にしているのですが、“朝ドラ”はスピード感が命です。その先の展開を知らないまま撮っていくので、今まで自分がやってきた逆算していくようなやり方だけでは通用しないと痛感することが多くありました。その中で、役の軸をしっかり持ちつつ、その場でいろいろなことを想像して演じる“瞬発力”が、この期間でかなり備わってきた気がします。
――りんという人物は多くの困難や壁にもぶつかります。さまざまな表現をする上で、見上さんはご自身の感情や過去の経験を引き出すタイプですか?それとも、りんという人物を客観的に構築していくタイプでしょうか。
完全に後者ですね。動かしているのは自分の体や心なのですが、その場で起きたことに反応したり、この役ならどうするかなということを考えて演じています。
――ご自身とりんが似ている部分なども、あまり意識されないですか?
普段から自分と役が似ているかどうかは極力考えないようにしています。共感できるかという自分の価値観だけで役を捉えてしまうと、25年しか生きていない自分自身の枠組みの中に表現が収まってしまい、自由度が減ってしまう気がするんです。脚本家や監督が描こうとしている人物像から離れてしまうのが怖いので、あえて自分とは重ね合わせないように意識しています。

■役が自分の中に息づいているからこそ――見上愛のせりふの覚え方
――見上さんは普段、せりふをどのように覚えられているのでしょうか?
ひたすら台本を見ます。基本的に声に出さないことの方が多いかもしれません。ただ、この作品に入った最初の頃は、少し違うアプローチも取っていて。栃木ことば独特のイントネーションがあったので、最初は声に出し、音として体に覚え込ませるやり方も取り入れていました。
――撮影を重ねる中で、その覚え方にも変化があったのですね。
そうですね。撮影が進んでいくにつれて、自分の中にりんの喋り方のテンポ感のようなものがしっかりと出来上がってきました。りんとしての感覚が掴めてからは、声に出さなくても台本を見るだけでりんがどんなニュアンスで話すかが自然とイメージできるようになって。日曜日は家にこもって、声は出さずにとにかく台本を見て覚えるのがルーティンになっています。
■温かい現場を作るための誠実な姿勢「対話することを大切に」
――仕事と向き合う際に大切にされていることを教えてください。
対話をすることです。クランクイン前の会見でも「まず温かい現場を作ることが、温かい作品づくりにつながる」とお話しさせていただいたのですが、プロデューサーさんや監督方もすごく寄り添ってくださいました。
大勢のスタッフやキャストが関わる現場で、全員が一度も嫌な思いをせずに走り切るというのは難しいことかもしれません。でも、より良い作品を作るための前向きな葛藤であれば、しっかり対話をすることで解消できると感じています。現場で疑問に思うことがあればすぐに監督に相談しますし、お互いの認識をすり合わせていくことを意識していました。現場のみなさんが本当に穏やかで、心地よい環境の中で作品作りができていることはとてもありがたいなと思います。
――現場の雰囲気の良さが伝わってきます。特に印象に残っているシーンがあれば教えてください。
女学校編の撮影は本当に楽しかったです。特に、みんなでアップルパイを食べて「蛍の光」の英語バージョンを歌うシーンが印象に残っています。女学校編の撮影が終盤を迎えるタイミングだったこともあり、数カ月間濃い時間を共に過ごしてきた仲間と急にお別れするような気分になってしまって…。みんなが本当に寂しそうにしていたのを覚えています。それまで築き上げた絆や同級生としての団結力を感じられたシーンになりました。
バーンズ先生を演じられたエマ・ハワードさんも、とってもチャーミングな方なんです。年齢差はあるのですが、前室ではなるべく日本語で話しかけてくださって、同級生と一緒にいるような気持ちにさせてくださいました。待ち時間もみんなで「最近買ってよかったおすすめグッズ」を共有し合ったりして、ずっとわいわいとお話ししていた記憶があります。あの温かい空気感も含めて、本当にすてきな時間でした。


■贅沢な時間を経て、さらに広がる未来
――ハードな日々を乗り切るための、見上さん流のリフレッシュ方法はありますか?
とにかく寝ます(笑)。ちょっと疲れたなとか、考えが整理されていないなと思った時は、なるべく寝て頭をリセットするようにしています。起きると新しいアイディアが浮かぶこともあって、やっぱり睡眠と食事は大切だなと感じます。栃木や新潟でのロケでは地元のおいしいお野菜や海鮮をいただいて、すごくエネルギーをもらいました。
あとは、大好きなムーミングッズにも癒されています。現場の方々も私がムーミン好きだと知って、お土産をくださったり、「ガチャガチャでムーミンのフィギュアが出たから飾っておくね」と言ってくださったり。現場をムーミンだらけにしていただいてすごくうれしかったです。
――充実した日々が伝わってきます。改めて、「風、薫る」という作品に参加されたことは、見上さんにとってどのような経験になりそうでしょうか。
“朝ドラ”は幅広い層の方が見てくださいますし、「“朝ドラ”というもの自体が好き」という視聴者の方もいらっしゃって、とても特殊で貴重な作品だと感じています。そうやって多くの方に作品が届き、見ていただけたことは、今後のキャリアにもつながっていくのではないかと思います。
そして何より、1年を通してひとつの役に向き合い演じられること、丁寧に作品を作っていける贅沢な環境に身を置けたことが本当にありがたかったです。りんという役に集中して過ごした時間が、今後どう生きてくるかはまだ分からないですが、挑戦する前の自分より少しでも成長できていたらいいなと思います。
――最後に、今後の見どころを含め、視聴者の方へメッセージをお願いします。
今後は、直美の周りもでさまざまな出来事が起こっていきます。それを直美がどう乗り越えていくのか、そしてりんがバディとしてどう寄り添い、共に向き合っていくのか。りんと直美が起こす“風”を最後まで見守っていただけたらうれしいです。

