Apple社は日本時間9月19日、iPhone17やAirPods Pro 3を発売しました。AirPodsには外国語をリアルタイムで翻訳する新機能(ライブ翻訳)が搭載され、注目を集めています(ライブ翻訳機能は、現時点では日本語には対応していません)。
早くも日本語対応を待ち望む声も聞かれますが、気になるのは誤訳があった場合です。
もしライブ翻訳の内容に誤りがあり、利用者に損害が生じてしまった場合、Apple社に法的責任を問うことはできるのでしょうか。玉真聡志弁護士に見解を聞きました。
●AirPodsにも、製造物責任法は適用されうる
製造物責任法(PL法)が適用される場合、製造物の欠陥について、製造業者の過失を立証する必要がなくなるため、損害を請求する側に有利となります。
PL法の対象は「製造又は加工された動産」(PL法2条1項)とされています。翻訳機能を実現するソフトウェア自体は無体物であり、「動産」ではありません。
そうだとすると、PL法は適用されないようにも思えますが、同条の「製造又は加工された動産」には、ソフトウェアが組み込まれた物も含まれます。
そこで、誤訳をしたリアルタイム翻訳のAirPodsも、製造物責任法の「動産」に含まれます。
●責任追及は難しい
——そうすると、AirPodsのリアルタイム翻訳機能を通じて会話をし、その翻訳が間違っていたことで損害を被った場合、Apple社に何らかの責任を追及することはできるのでしょうか?
結論としては、難しいと考えます。1)規約との関係、2)因果関係の問題、3)仮に損害が認められるとして、過失相殺の問題、があると考えられますので、順に説明します。
<1)の規約>について
AirPodsに関する直接の規約ではありませんが、Apple社では、翻訳に関し、「危害を加えられるまたは怪我をする可能性のある状況や、危険度の高い状態や、ナビゲーションの目的や、病気の診断/治療の目的などにおいては、“翻訳”に頼るのはおやめください。」という規約が定められています。
この規約では、リアルタイム翻訳は緊急性の高い案件(事件・事故が発生した状況又はその直前、病気治療など)に用いないでほしい、というApple社の意向が示されていますので、リアルタイム翻訳は、緊急性の高い案件での利用が予定されていないことになります。
そのため、緊急性の高い案件で誤訳が起きた場合、Apple社に法的責任を追及することは難しい、と思います。
<2)の因果関係の問題>について
では、「緊急性の高くない案件の場合はどうなのか」と疑問にもたれる方もいらっしゃるでしょう。
結論としては、この場合も責任追及は難しいと思います。 リアルタイム翻訳は会話の中で用いられることがほとんど、だと思います。
リアルタイム翻訳が会話で使われる中で誤訳が発生した場合、通常は、会話の当事者同士が翻訳後のニュアンスに違和感を覚えて、後で、会話内容と翻訳のずれを修正することが多いのではないでしょうか。
そのため、リアルタイム翻訳の誤訳が決定的となって、話者の一方に損害が発生する事態を想定し難い、という点がまず挙げられます。
次に、仮に損害が発生したとしても、契約書類等のテキスト上の誤訳と異なり、リアルタイム翻訳は生の会話を対象にするので、後から誤訳を特定することがかなり困難です。
このような状況で、誤訳と損害発生との因果関係を立証するのは難しいと思われます。
さらに、誤訳に気付かなかった当事者のミス(過失)も考慮要素になります。
これまでにご説明したとおり、リアルタイム翻訳には誤訳はつきものでしょうし、Apple社には(緊急性の高い案件に使うなという形ではありますが)それを前提とした規約もあるわけです。
このような状況では、ユーザーは誤訳に気付いて他の翻訳ソフト(例えばグーグル翻訳など)を用いることも可能であったと認定されることも有り得るので、損害が発生しても、誤訳と損害の因果関係が肯定されない場合も有り得ます。
<3)の過失相殺>について
仮に因果関係が肯定されたとしても、話者が他の翻訳ソフトを使わなかった点に相当な落ち度があるとして、過失相殺が認められる事態が想定されます。
そのため、リアルタイム翻訳機能で誤訳が起きたとしても、Apple社への法的責任を追及することは、中々難しいのではないかと思います。
【取材協力弁護士】
玉真 聡志(たまま・さとし)弁護士
千葉県弁護士会で法律事務所を主宰。2013年弁護士登録。会社と従業員の労働問題、企業間トラブル(代金未払いなど)、ご家族の間で起きる法律問題(離婚、相続)を専門とする。「法律問題の解決を通じて、相談者様の幸せを実現する。」をモットーに、日々の業務に励む。
事務所名:たま法律事務所
事務所URL:https://tama-lawoffice.com/

