
郵便配達員たちは毎日、町の隅々まで郵便物を配達して回る、いわばその町を知り尽くした「町のプロ」だ。日常の配達・集配業務を通じて、高齢者の安否確認や子どもの登下校の見守り、不審者や異常事態の通報を行う「ながら防犯活動」も警察や自治体と連携して展開していると日本郵政の公式サイトで公表している。そんな郵便局員の1人であるN支店の村井さんが、酔いつぶれた会社員を保護した話を紹介する。



夜勤で最後のマンションへの配達を終えた村井さんは、植え込みから立ち上る煙を発見。たばこの投げ捨てによるボヤかもしれないと急いで駆け寄った。しかし、そこにいたのは酔っ払って倒れているサラリーマンだった。ボヤと見間違えた煙は彼の口から吐き出されており、それは火の煙でもたばこの煙でもなく「エクトプラズム」と呼ばれるものだった。
村井さんは彼に声をかけ、担いで家まで送り届けた。「施錠して布団で寝てくださいね」とその場を去ろうとしたが、「殺してくれ…」とつぶやく声が気にかかり、水分補給用の飲料水を購入して再度訪問。布団を敷き、翌朝のアラームまでセットして玄関の扉を閉めた。村井さんが部屋をあとにするころにはもう「エクトプラズム」は吐いていなかったが、彼は無事なのだろうか。
「エクトプラズム」とは、人間には肉体と幽体があるという説において、幽体が視覚化される際の「エネルギー体」だといわれている。本作の作者は現役郵便局員の送達ねこ(@jinjanosandou)さんだ。同僚たちが体験した話を漫画化していくうち、他局からも体験談が届くようになったという。
■作者自身が経験した「肉体を離れた人の存在」を感じた夜
送達ねこさん自身も「肉体を離れた人の存在」を意識する実体験があるという。
10代のある夜、布団に入ってすぐ、真っ暗な部屋で1人にもかかわらず、誰かが上に乗ってグッと押してくる感覚があった。気配は少し続いてやんだが、翌朝「誰か亡くなったと思う」と友人に話しながら登校すると、担任から「体育のS先生が亡くなった」と伝えられた。S先生は当時所属していた部活動の顧問の家によく集まっていた若い先生の1人で、帰り道をマラソンしながら送ってくれた恩師だった。
「昨夜のことはS先生と関わりがあるのでは?」と思えたが、数百キロ離れた病院からどうやって来たのか。送達ねこさんは入院先の病院にお見舞いのハガキを出しており、「もしかしたら返事をしようとして来てくれたのではないか」と思うようになった。この出来事が、不思議な漫画を描く原点になっているという。
また、実体験をSNSにアップすると、多くの人から「説明のつかない体験談」が届いた。「線路を渡るときに、事故で亡くなった配達員の声が聞こえる」という話は、すさまじい悲鳴と無念が伝わってきたそうで、同じ仕事に就く者としてしんどいものがあったと送達ねこさんは語る。
不思議な体験を「誰にも話したことがなかった」と語る人が何人もいたことも印象的だったという。「信じてもらえない」「引かれる」という思いから、霊体験を語る際はどうしても慎重になってしまう現実があるようだ。
■まさかの後日談!名札に反応する営業マンの“能力”
本作では、サラリーマンが村井さんの元を訪れる後日談まで描かれている。村井さんが「あの前後不覚だった人がどうしてオレの名を?能力者?」と驚くと、彼は「とっさに名札に反応するの営業の性(さが)ですね」と笑った。ある意味、名札に対してQRリーダーのごとく反応する、優れた営業マンという名の“能力者”だったのだ。
「郵便屋が集めた奇談」は、読者から「こういう不思議で怖い話って好き」「背筋がゾクッとしたけど、めちゃくちゃおもしろい…!」と好評を博している。日本のどこかの町でひっそりと起こっている“怪異”を覗き見してみてはいかがだろうか。
取材協力:送達ねこ(@jinjanosandou)
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