
ドラマ「ブラックペアン」シーズン2が、8月5日にディズニープラスで配信された。海堂尊氏の小説「ブラックペアン1988」を原作に、二宮和也主演で2018年にTBS系の日曜劇場で放送された医療ドラマ「ブラックペアン」。東城大学医学部付属病院を舞台に、卓越した縫合技術を持ちながら“オペ室の悪魔”と呼ばれる外科医・渡海征司郎が、最新の手術用医療機器「スナイプ」を巡る陰謀や大学病院の権力争いに立ち向かうという物語で、二宮は常人離れした天才外科医を見事に演じ切った。シーズン2はそれから6年後を舞台に、二宮が渡海とは違う“天才外科医”を演じた。(以下、ネタバレを含みます)
■前作から6年後を舞台にしたシーズン2
タイトルになっている“ブラックペアン”とは、黒い止血鉗子のことで、本作の鍵を握る過去の医療事故にも関係している。2024年に続編として放送されたのが「ブラックペアン」シーズン2。海堂氏の「ブラックペアン1988」に続く“バブル三部作”の第2作「ブレイズメス1990」と第3作「スリジエセンター1991」が原作だ。前作の放送から6年を経て制作され、くしくも物語の中でも6年の月日が流れている。
6年前に渡海が東城大学を去り、現在は佐伯清剛(内野聖陽)が東城大学医学部付属病院の病院長に。心臓外科に特化した新病院の設立に奔走し、さらには日本医学界のトップである全日本医学会会長への就任を目指している。
佐伯は、その新病院の設立に向けて、オーストラリア・ゴールドコーストで働く、世界的名医といわれる日本人の心臓外科医・天城雪彦(二宮)をスカウトするために、心臓血管外科医の世良雅志(竹内涼真)に天城への手紙を託した。
オーストラリアを訪れた世良は、ビーチで倒れた少年に遭遇。少年を救おうと応急処置をしていると、そこに1人の男が現れた。一瞥しただけで症状を把握し、最適な処置法を伝えて去っていった、その男こそ、世良が探していた天城だった。
■渡海とは趣の異なる悪魔的な“天才外科医”
「ブラックペアン」シーズン2の面白いところは、前作に引き続き、二宮が主演を務めているが、演じるのは別の人物であること。銀髪ではあるものの、世良が渡海と間違えるほどそっくりな天城をシーズン2では演じている。ほか、前作に続いて二宮、竹内、内野に加え、葵わかな、趣里、小泉孝太郎らも続投。6年たって変化した姿を見せており、ムジュンや田中みな実、段田安則、石坂浩二が新たに加わって作品に厚みを増している。
渡海が天才外科医であるのと同じように、天城も天才外科医である。“ダイレクト・アナストモーシス”という超高難度の冠動脈バイパス術を行える、世界で唯一の外科医だ。“神の手”とも称される技術を持つ一方、手術を受ける条件として二者択一の賭けを課し、掛け金に財産の半分を要求することから、“ディアブル(悪魔)”の異名を持つ。
第1話からその悪魔っぷりがうかがえる。韓国人の研修医ミンジェ(キム・ムジュン)は、母親のパク・ソヒョン(チェ・ジウ)が患う心臓病を治してもらおうと大金を携え、オーストラリアの天城の元へ。
苦しむソヒョンに、「あなたを完全に治すには、僕のダイレクト・アナストモーシスしかない」と伝え、手術を受ける条件として天城から提示された“賭け”に挑み、日本円で2億円もの大金を懸けたルーレット勝負に臨む。無情にも賭けは失敗。世良が説得しようとするがうまくいかず、天城を「悪魔」呼ばわりするが、彼は「僕は悪魔だよ。神に愛された、ね」と、世良の言葉をスルリとかわす。
その後、ミンジェとソヒョンが再度交渉して賭けを行い、手術をすることとなったが、天城が手術を引き受けたのは、自分の腕前に値するものを相手が差し出したからだった。そのかたくななところは渡海と似ているように感じる。心臓手術の腕前はうわさに違わぬもので、目の当たりにした世良も認めざるを得ないほどだった。
世良は「天城先生と一緒に仕事がしたい」と伝え、渡海のことを話して説得を試みる。すると、天城が“渡海”の名前にかすかに反応を示した。世良とルーレット勝負を行い、赤でも黒でもない、緑の「0」に玉が収まると、「君はまだ神に見放されていないのかもしれない」と笑い、日本に行くと答えた。
■渡海と天城の関係も気になるが…二宮の演技力に注目
第2話からは日本を舞台にストーリーが進んでいくが、何度も登場するのが“ダイレクト・アナストモーシス”という術式。これは本作を読み解く上で最重要のキーワードだといえる。手術シーンはとてつもないスピード感で、世良が一発で魅了されたのもうなずける。天城には“ジュノ”(=青二才)というニックネームをつけられ、雑用を任されることも多いが、そんな世良の成長ぶりにも感情移入できる。
人を救いたいという思いを抱く真っすぐな世良と天城の関係、顔がそっくりな天城と渡海の関係などに注目してシーズン2を楽しんでもらいたい。
渡海も個性が強いというか、変わった人物だったが、天城も同様にかなりの変人で謎も多い。主演の二宮は、映画「母と暮せば」(2015年)で「第39回日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞に輝くなど、俳優としても確かな実績を積み重ねてきた。
2025年に劇場公開された“異変探しゲーム”を原作とする映画「8番出口」では、“地下鉄の通路を進み、異変が見つかれば引き返す”という特異な世界観の中で、主人公の“迷う男”を体現。7月からシーズン2が開幕した日曜劇場「VIVANT」(TBS系)でも、前作でテントの幹部だったノコル役として独特の存在感を発揮している。
天城は、患者に全財産の半分を賭けさせ、自らを「神に愛された悪魔」と言ってのける、ともすれば鼻につきかねない人物。だが二宮は、その奇抜さを必要以上に誇張せず、軽やかな口調や柔らかな笑み、つかみどころのない間の取り方で自然体の人物として立ち上げている。
異質さや危うさを漂わせながらも嫌味にならず、むしろ目で追わずにはいられない魅力に変えてしまう。その力の抜けた、ひょうひょうとした表現こそ二宮の持ち味であり、まさに「二宮だからこそ成立した」役ともいえるだろう。
そんな彼が演じ切った“渡海”と“天城”を、配信が始まったこの機にあらためて見比べてみるのも、乙な楽しみ方なのではないだろうか。
◆文=田中隆信

