静岡のあとは、秋田、東京、松本、京都など全国を巡回する予定。一足早く作品を鑑賞したいという想いを胸に、静岡市美術館へ足を運んでみた。

リサ・ラーソンの動物たちや、スティグ・リンドベリの「ベショー」の葉っぱ柄など…。見たことのある人も多いだろう。北欧食器好きなら、持っているものもあるかもしれない。実はこれらの名品は、スウェーデンのグスタフスベリ製陶所という場所から生まれている。
ここまでグスタフスベリにフォーカスし、スウェーデン国立美術館から所蔵作品が一挙に日本にやって来る展覧会は今回が初めて。この大きなチャンスに北欧デザインに興味がある人はもちろん、「グスタフスベリって何?」という人にもぜひとも訪れてほしい。

■静岡市美術館ってどんなところ?
全国6会場を巡回する本展覧会の第一会場となる静岡市美術館は、東海道新幹線が停まる静岡駅から徒歩約3分。新横浜駅から新幹線に乗ると、たったの40分ほどで到着する。都内の混雑と喧騒から離れてゆっくり美術鑑賞ができる絶好のロケーションだ。静岡市美術館があるのは、駅前にそびえる葵タワーの3階。駅前広場からだと、地下を通って葵タワーへ直結の通路を通って行くこともできる。館内は白を基調とした明るい空間で、初めて訪れる人にも入りやすい雰囲気になっている。


■グスタフスベリって、そもそも何?
展覧会に行く前に、「グスタフスベリ」という名前の由来を調べてみた。もとはファシュタと呼ばれていたこの地に、ある夫婦が煉瓦工場と邸宅を構えていた。その後、早くに亡くなった夫を偲び、妻が彼の名「グスタフ」にちなんで、土地の一部に「グスタフベリ」、グスタフの丘という意味の名を付けたのが始まりだという。(ベリはスウェーデン語で丘の意味)
1825年、経営を引き継いだ卸売業者によって、陶磁器の工場が新たに設立され、ここからグスタフスベリ製陶所の歴史がはじまった。

当時のヨーロッパで、磁器づくりは難しい技術だった。グスタフスベリ製陶所でも最初はドイツ、そしてイギリスから技術者や粘土を導入して磁器作りをスタートし、試行錯誤を重ね、独自のスタイルを模索。1866年のストックホルム総合産業博覧会、1889年のパリ万博で好評を博するまで成長したのだそうだ。
■「すべての人に美しさを」4人のデザイナーが紡いだ物語
今回の展覧会では、ヴィルヘルム・コーゲ、スティグ・リンドベリ、リサ・ラーソン、カーリン・ビョルクヴィストというグスタフスベリを代表する4人の作品を見ることができる。非常に貴重な機会なので、ぜひともゆっくりとひとつずつ眺めたい。

19世紀のスウェーデンでは、女性思想家・教育者のエレン・ケイによる『すべての人に美しさを』(1899年)で述べられた思想を下敷きに、デザイン改革が図られていた。1917年にグスタフスベリに入社したコーゲは、やがてアーティスティック・ディレクターとして、一般家庭でも使いやすいデザインのテーブルウェアを生み出し、グスタフスベリを国民的ブランドへと導いていく。1942年にコーゲが設置した「G- スタジオ」は、生産性や効率が求められる製造ラインとは異なり、アーティストたちが自由に制作できる工房だった。当時の社長のヤルマル・オルソンは、アーティストたちに「カモメのように製陶所の上空を飛びまわり、何かおもしろいものを見つけたらさっと舞い降りるように」と伝えていたそうだ。こうした環境から、デザイナーの自由な創造と産業が結びついた豊かな関係によって、今も私たちを惹きつけてやまない作品が生まれたのだ。


スティグ・リンドベリが生み出した1960年代のスウェーデンを象徴する葉模様、「ベショー」シリーズは世界中で愛されているし、自由な色彩で彩られたファイアンス作品にも心を奪われる。ファイアンスとは、白い錫釉(すずゆう)をかけた陶器に鮮やかな絵付けを施すヨーロッパ伝統の技法だ。

スタジオに加わった若きスターがリサ・ラーソン。猫やライオン、子どもたちをモチーフにした作品は、本当にかわいくて家に一緒に連れて帰りたくなってしまう。家族や動物への愛情を、そのまま土に練り込んであるかのような温かみを感じられる。展覧会では大皿や彫像作品などの1点ものの作品も数多く展示してある。制作時のリサ・ラーソンのワクワクした感情が、こちらにまで伝わってくる気がして楽しいのでじっくり見てみよう。

1980年代にアーティスティック・ディレクターのバトンを受け取ったのがカーリン・ビョルクヴィストだ。手仕事の風合いを機械生産に落とし込み、かつ低価格を実現させた「ヴァールダーグ(日常)」をはじめ、彼女の作品は私たちの日常生活にひっそりと寄り添う。一方で、1991年にノーベル賞の晩餐会のためにデザインした豪華なディナーセット「ノーベル・サービス」は、国民の誰もが知る代表作だ。そのボーンチャイナの美しい白さと、洗練のデザインをいろんな角度から眺めて豊かな気分になってみよう。

■展覧会はもちろん、限定コラボグッズや陶器の販売も見逃せない
スウェーデン国立美術館所蔵の約300点を公開している展覧会なので、工場が量産した定番品から、作家の1点ものまで一度に見ることができる。4人の有名なデザイナーを軸に、グスタフスベリ200年の歩みを追体験できる構成。見終わったころにはスウェーデンの歴史や人々の暮らしがすこし想像できるようになる。日本の民藝運動作家たちとの交流が与えた影響も大きく、数々の作品に表れているので、その作品も見つけてみよう。

ミュージアムショップには会場限定のオリジナルコラボグッズや、スウェーデン製陶器・雑貨の販売も。リサ・ラーソンの猫グッズもたくさんあるので要チェックだ。

静岡市美術館では、まるでスウェーデンの喫茶タイム「フィーカ」のようなくつろいだ時間が過ごせる。

■展覧会前後に楽しみたい!静岡市はみどころ盛りだくさんの街
静岡駅ビルには安倍川もちなどの静岡銘菓やお茶の専門店が並び、お土産、グルメを楽しむことができる。アスティとパルシェという2つの駅ビルが直結しており、今回筆者はアスティ1階でおいしいご当地ランチをいただいてから美術館へ向かった。駅前広場に出れば、今川義元と少年時代の徳川家康(竹千代)の像、そしてその奥には家康公の銅像がお出迎えしてくれ、静岡市が今川家・徳川家ゆかりの歴史都市であることを感じさせてくれる。

駅から少し足を延ばせば弥生時代の集落跡「登呂遺跡」や、家康が幼少期・大御所時代を過ごした「駿府城」など、静岡を代表する歴史スポットへもアクセスしやすい。また、近年はプラモデルや模型メーカーが集まる“模型のまち”としても知られている。プラモデルを模したモニュメントも点在し、訪れた際には海外からの観光客の姿も見かけた。
日本で初めてとなる、グスタフスベリの歴史と魅力を紹介する大規模な展覧会。その全国巡回の幕開けとなる静岡市美術館では、都会の喧騒を離れてゆったりと作品を鑑賞できるだけでなく、展覧会の前後に街歩きやグルメ、お土産探しまで楽しめるアートと観光を一度に満喫できる、なんとも欲張りなロケーション。この夏は新幹線でひとっ飛び、静岡でスウェーデンの“暮らしの美”に浸ってみるのもおすすめだ。

基本情報
展覧会名:スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし
会期:2026年6月27日〜9月6日(日)
会場:静岡市美術館(静岡県静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3階)
開館時間:10時〜19時 ※入室は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日
観覧料:一般1600円、大高生・70歳以上1200円、中学生以下無料
アクセス:JR静岡駅より地下道を利用して徒歩3分
取材・文=レックス
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