糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは、インスリンが極端に不足することで血糖値が急上昇し、「ケトン体」という酸性の物質が血液中に大量に蓄積される状態です。本来は弱アルカリ性(pH 7.35〜7.45)に保たれている血液が酸性に傾くと、さまざまな臓器の機能が乱れ始めます。なぜこのような連鎖が起きるのか、身体の中で何が起きているのかをわかりやすく解説します。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2016年仙台市立病院循環器内科
2019年江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年岩手県立中央病院糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年医療法人社団啓愛会理事
2026年孝仁病院美希病院
所属学会
日本医師会 産業医
日本循環器学会 循環器専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本内科学会 総合内科専門医
糖尿病性ケトアシドーシスと糖尿病の深い関係(後編)
前編では糖尿病の基本とケトアシドーシスの仕組みを解説しました。後編では、どのような方に起こりやすいのか、どのような症状として現れるのかを詳しく見ていきます。
どのような方に起こりやすいか
糖尿病性ケトアシドーシスは、すべての糖尿病患者さんに起こりうる可能性がありますが、特定の状況や背景を持つ方に多く見られます。まず、1型糖尿病の方の中で、インスリンを産生できない方はインスリンの補充が不十分になると急速に発症するリスクがあります。インスリン注射の打ち忘れや、間違った判断による投与量の変更、インスリンポンプ(インスリンを持続的に投与する機器)の不具合なども直接的な発症の引き金になりえます。
2型糖尿病の方であっても油断はできません。特に発熱や下痢、感染症、手術などで体に大きなストレスがかかる「シックデイ(体調を崩している日)」には、ストレスホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなり発症しやすくなります。また、清涼飲料水やスポーツドリンクなどを短期間に大量摂取することで引き起こされる「ペットボトル症候群(ソフトドリンク・ケトアシドーシス)」も注意が必要です。なお、糖尿病と診断されていない方が、初めて現れた急性症状として糖尿病性ケトアシドーシスで救急受診することも珍しくありません。
年齢に関しては若い方から高齢の方まで幅広く発症します。ただし、高齢の方では咽頭の渇きを感じにくく症状の訴えが不鮮明になりがちなため、発見が遅れることがあります。また、妊娠中の糖尿病をお持ちの方では、ホルモンバランスの変化によって体内のインスリン必要量が急増するため、特に慎重な管理と注意が必要です。
症状の特徴と進行のパターン
糖尿病性ケトアシドーシスの症状は段階的に進行します。初期の段階では、著しい高血糖に起因する症状が現れます。具体的には、猛烈に口が渇く(口渇)、トイレの回数と尿量が激増する(多尿)、身体が激しくだるい(倦怠感)、食欲が落ちるといった症状が挙げられます。これらは高血糖状態のときに一般的に見られるサインであり、この段階で気づいて早期に処置することが重症化を防ぐ鍵となります。
症状が進行すると、体内に溜まったケトン体の影響で強い吐き気・嘔吐、激しい腹痛といった消化器の症状が加わります。さらに、血液の酸性化を少しでも和らげようと体内の二酸化炭素を吐き出すため、深く大きい呼吸を繰り返す「クスマウル呼吸」と呼ばれる特徴的な呼吸状態が見られるようになります。また、呼気(吐いた息)がフルーティーな甘酸っぱいにおい(アセトン臭)を帯びることがあり、これはケトン体の一部が呼吸によって排出されるためです。さらに重症化すると、血圧低下や脳の機能障害が起き、意識が朦朧として最終的には昏睡状態(意識障害)に陥ります。
症状が現れてから重症化するまでの時間は数時間から24時間程度と極めて短く、進行スピードが非常に速く、数時間から数日の間に急激に症状が悪化して意識障害に至るケースもあるため、初期のサイン(異常な口渇や多尿など)を見逃さないことが重要です。 糖尿病をお持ちの方やご家族がこれらの症状に気づいた場合は、様子を見ずに直ちに救急要請や医療機関の受診を行ってください。
まとめ
糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病を抱える方にとって決して遠い存在ではない、深刻な病態です。しかし、その仕組みを理解し、原因となる引き金を把握したうえで日々の管理を丁寧に続けることで、発症リスクを大幅に下げることができます。症状のサインに気づいたときはためらわず医療機関へ相談し、専門の医師とともに適切な対応を取るようにしましょう。本記事が、糖尿病と向き合う方やそのご家族にとって、正しい知識を得るための一助になれば幸いです。
参考文献
厚生労働省「糖尿病」
糖尿病情報センター「糖尿病の急性合併症のはなし」
MSD Manuals「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」
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