井上祐貴、怒りの演技も見事 若くして老中首座に上り詰めた“松平定信”を魅力ある人物にする好演<べらぼう>

井上祐貴、怒りの演技も見事 若くして老中首座に上り詰めた“松平定信”を魅力ある人物にする好演<べらぼう>

若くして老中首座に抜てきされた松平定信を演じる井上祐貴
若くして老中首座に抜てきされた松平定信を演じる井上祐貴 / (C) NHK

横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。10月12日に放送された第39回「白河の清きに住みかね身上半減」では、蔦重(横浜)が“お白洲”という場にはなったが定信(井上祐貴)と対面する場面があった。身分の違いはあれど、蔦重にとっての宿敵のような存在を井上が好演している。(以下、ネタバレを含みます)

■数々の浮世絵師らを世に送り出した“江戸のメディア王”の波乱の生涯を描く

森下佳子が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く痛快エンターテイメントドラマ。

蔦重はその人生の中で喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴を見い出し、また日本史上最大の謎の一つといわれる“東洲斎写楽”を世に送り出すことになる。

幕府“新時代”を目指す権力者・田沼意次役で渡辺謙、美人画が大評判となる喜多川歌麿役で染谷将太、蔦重の妻・てい役で橋本愛らが出演。語りを綾瀬はるかが務める。

■盛大にたわけた蔦重に怒りを募らせた定信

定信の出版統制の抜け道を見つけ出し、好色本を教訓読本として出した蔦重。定信は、異例ながら自ら検分するとして、蔦重と裁きの場である“お白洲”で直接対面した。

蔦重を諭そうとするが、「白河の清きに魚(うお)住みかねて元の濁りの田沼恋しき」という世に出ている狂歌を突きつけられたことに始まり、挑発ともいえる発言が続いた。

視聴者からも「やり過ぎ」「言い過ぎ」と心配の声が出たとおり、蔦重の言葉を聞く定信は、目に怒りを宿しただけでなく、後姿を捉えたカットですら、怒っていると分かるほど、感情がにじみ出ていた。

黄表紙好きと明かされた定信は、蔦重のもとで本を出していた恋川春町(岡山天音)ひいきで、蔦重のことも本屋として認めていたはず。しかし、世をよくしたいという思いのアプローチはまったく違うもので、そのすれ違いが切なくもある。お白洲でも盛大にたわけた蔦重らしさに対し、真っすぐに自分の信念で突き進む定信が相容れない存在であることが伝わる怒りだったように思える。

■ラストでも秀逸な表情を見せた定信役の井上祐貴

第36回で、自分がきっかけで春町が自害したと知り、一人泣き崩れた定信。その姿に視聴者からは「この松平定信、初めて好きな松平定信かもしれん」という感想があった。厳格でしたたかな面もある一方で、黄表紙を嬉々として読むときのちょっとだけ柔らかな感じ。人となりの厚みを、井上祐貴が見事に出している。

井上は、2017年の第42回ホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞し、翌年にミュージカル「ピーターパン」でデビュー。2019年には「ウルトラマンタイガ」(テレビ東京系)で初主演し、キャリアを重ねてきた。大河ドラマは「どうする家康」(2023年)に続く2作品目で、NHK作品としては連続テレビ小説「虎に翼」(2024年)での出演も記憶に新しい。

史実では定信が老中首座に就任したのは30歳だったとされるが、井上は1996年生まれの29歳。意次役の渡辺謙や、将軍の実父として権力を握るようになった治済役の生田斗真とも堂々と渡り合う、見ごたえある演技でも楽しませてくれている。

さて、蔦重は、妻・ていの命乞いの効果もあって命は助かり、財産を半分没収される「身上半減」の沙汰が下った。金や本屋にとって大切な版木も半分没収になっただけでなく、のれんや看板も半分に切られるという状態で、狂歌師の大田南畝(桐谷健太)は「実に、ふんどし(※定信のこと)の几帳面さがうかがえる」と評する始末。ただ、その珍しい処罰を逆手にとって蔦重は「身上半減の店」として商売を続けて、江戸の名所となるまでに。そのため処罰をもっと重いものにするべきだったのではとも言われたが、定信はこの処罰は決して軽いものではなく「その身にじわじわと効いてくるはずだ」と語った。

そのまま突き進むかに思えたが、ラストでは若年寄の本多忠籌(矢島健一)に「人は『正しく生きたい』とは思わぬのでございます。『楽しく生きたい』のでございます。このままでは田沼以下の政とのそしりを受けかねませぬ」と痛いところを突かれてしまった定信。「楽しく生きたい」は蔦重の思いにも通じるもの。そのときに井上が表現した、ハッとしたような複雑な表情も秀逸で印象に残った。主演の横浜を支える好演を見せる井上にも注目していきたい。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

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