糖尿病網膜症は、糖尿病が引き起こす合併症のひとつです。血糖値が慢性的に高い状態が続くことで、目の奥にある網膜の細い血管がダメージを受けていきます。なぜ糖尿病が目に影響をおよぼすのか、そのメカニズムや起こりやすい条件を理解することが、網膜症を遠ざけるための第一歩になるかもしれません。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
糖尿病と糖尿病網膜症の関係
糖尿病網膜症は、糖尿病が引き起こす合併症のひとつです。このセクションでは、糖尿病がどのようなメカニズムで目に影響を与えるのかについて解説します。糖尿病そのものへの理解を深めることが、網膜症の予防や早期発見につながります。
糖尿病とはどのような病気か
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が慢性的に高くなる病気です。通常、食事で摂取した糖質は消化・吸収されてブドウ糖となり、血液を通じて全身の細胞に届けられます。このとき、膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンというホルモンが、細胞が血糖を取り込む手助けをしています。
しかし、インスリンの分泌量が不足したり、インスリンが十分に働かなくなったりすると、血糖が細胞に取り込まれず、血液中に糖があふれた状態が続きます。この状態が長期間続くことで、全身のさまざまな組織・臓器に障害が生じるのが糖尿病の本質的な問題です。
糖尿病は大きく1型と2型に分類されます。1型は膵臓のインスリンを作る細胞が破壊されることで発症し、2型は生活習慣や遺伝的要因によってインスリンの分泌や作用が低下することで起こります。日本の糖尿病患者さんの大部分は2型であり、食生活の変化や運動不足、肥満などが発症に関与しているとされています。
糖尿病は初期の段階では自覚症状がほとんどなく、進行してはじめて「のどが渇く」「尿が多い」「疲れやすい」といった症状が現れることがあります。このため、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくありません。
高血糖が網膜の血管に与えるダメージ
血糖値が高い状態が続くと、全身の細い血管(毛細血管)がダメージを受けます。目の奥にある網膜は、非常に細かい血管が密集した組織であるため、このダメージを受けやすい部位のひとつです。
高血糖状態では、血管の内壁を構成する細胞が傷つき、血管の壁がもろくなります。そうなると血管から血液成分が漏れ出したり、血管が詰まったりするようになります。さらに、酸素や栄養が届かなくなった網膜が新しい血管(新生血管)を作ろうとしますが、この新生血管は非常に脆く、出血を起こしやすい性質を持っています。
このような一連の変化が積み重なることで、網膜の機能が徐々に失われていくのが糖尿病網膜症です。重篤な場合は網膜剥離(もうまくはくり)や硝子体(しょうしたい)出血を引き起こし、視力が大幅に低下することもあります。網膜症の進行スピードは個人差がありますが、血糖コントロールの状態や罹患期間が大きく影響します。
糖尿病網膜症が起こりやすい条件
糖尿病網膜症は、糖尿病を発症してすぐに起こるわけではなく、一定の期間を経て進行することが多いとされています。糖尿病の罹患期間が長いほど、網膜症が現れるリスクが高まるという報告があります。
また、血糖コントロールが不良な状態が続いている場合、高血圧や脂質異常症を合併している場合、喫煙習慣がある場合なども、網膜症の進行に影響を与える要因として挙げられます。特に過去1〜2カ月間の血糖値の平均的な状態を示す指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値が高いほど、網膜症を含む合併症のリスクが上がる傾向があります。
糖尿病と診断された方は、血糖管理と同時に眼科での定期的な検査を続けることが重要です。自覚症状がなくても網膜には変化が起きている場合があるため、医師の指示に従って定期検診を受けることが大切です。
まとめ
糖尿病網膜症は、高い血糖が続くことで網膜の細い血管が障害される合併症です。初期は自覚症状がほとんどなく、眼底検査で初めて見つかることが少なくありません。進行は単純・増殖前・増殖の段階で捉えられ、これとは別に黄斑浮腫が視力に大きく影響します。治療にはレーザー、抗VEGF薬の硝子体内注射、必要時の硝子体手術などがあり、いずれも内科での血糖・血圧管理とセットで行うことが大切です。費用は多くの場合保険診療の対象で、高額療養費制度や医療費控除の活用も検討できます。糖尿病と診断された方は、目の症状の有無にかかわらず眼科での定期検査を続け、見え方の急な変化があれば速やかに受診してください。
本記事の受診間隔や費用は一般的な目安です。病状や治療内容、自己負担は個人差が大きく、制度も改定されることがあります。最終的な判断は主治医・医療機関の説明に従ってください。
参考文献
厚生労働省「糖尿病の合併症について」
日本眼科学会「糖尿病網膜症診療ガイドライン」
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」
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