千尋の精神が自分の中に投影されている
――『あんぱん』や千尋役は、ご自身にとって改めてどういう出会いになりましたか? 反響も相当大きかったと思いますが。中沢:反響はすごかったです。本当に大きな出会いでした。千尋の性格、千尋の精神というのも、僕の中に投影されていっています。千尋だったらどうするかなとか、考えることが今でもあるんですよ(笑)。千尋みたいなかっこいい男になっていきたいなという想いもあります。
でも、この千尋よりも大きな反響を呼べるような役を今後増やしていかなくてはいけないと思いました。この役に勝る役をどんどん作っていかないといけないですし、いい意味で自分にプレッシャーをかけたいです。
――ちなみにどういうシチュエーションで千尋が出てくるのですか?
中沢:その時演じている役の影響と言いますか、だから千尋に限ったことではないのですが、たとえばご飯を食べる時、千尋だったら姿勢がいいよなとか、本当に細かいことなんです。千尋じゃない役の時は、肘を付いて食べるのかなとか、大半は所作の部分ですね。
大事な選択をする時も、千尋なら厳しい道を選ぶだろうなとか。千尋は兄・嵩の前では自分を出さない人だったので、千尋だったらここは一歩引いてまわりを見ながら発言するだろうなとか、そういう想像をしながら役の思考と自分の思考を近づけていく感じなんです。
――そういう役作り法ということなんですね。
中沢:そうですね。でも、それが日常にも出ると。スーパーでお惣菜を買うにも「千尋って和食好きだよな」とか、お医者さんの家系だからいいもの食べているよなとか。食事シーンも多かったので、あの時代にしてはいいもの食べていたんですよね。そういう細かいところに出てしまうんです。
ひとりの人間として、変わらないでいたいこと
――さて20代後半に入りますが、どう過ごしたいですか?中沢:まずはひとつひとつの作品、ひとつひとつのシーンに対して一生懸命にやるということですかね。先を見過ぎても目の前のことがおそろかになってしまうのと思うので、まずはひとつひとつの作品、シーン、役、しっかり全力で悔いの残らないようにやっていけば、それも経験になって余裕も出てきて、自信に変わっていくのかなと思っています。
――今年は成長の一年だったかと思いますが、その一方で変わらないでいようと思うことはありますか?中沢:あります。俳優としてもそうなのですが、ひとりの人間として変わらず大事にしたいと思うところもあります。たとえばこの人と仕事をしたら気持ちがいいな、この人ともう一回お仕事をしたいなとか、そう思ってもらえること。
ひとつの作品を作ることって本当に大変なことですし、いろいろな方が関わってくださって初めてできること。だから、この人とだったらいい作品を作りたいなと思っていただけるような、俳優よりも手前の部分、人間力の部分を変わらず大事にしていきたいです。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃 ヘアメイク/速水昭仁 スタイリスト/田中トモコ 衣装協力/CULLNI、ロックポート>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

