糖尿病性ケトアシドーシスには、明確な発症の引き金が存在することがほとんどです。インスリン注射の打ち忘れや自己判断による中断、インスリンポンプの不具合などの直接的な原因のほか、感染症や手術などの身体的ストレスも発症を促すことがあります。また、SGLT2阻害薬の使用中には血糖値が著しく高くない状態でも発症する「正常血糖ケトアシドーシス」に注意が必要です。発症に関わる原因と身体の仕組みを理解することが、予防の第一歩になります。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2016年仙台市立病院循環器内科
2019年江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年岩手県立中央病院糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年医療法人社団啓愛会理事
2026年孝仁病院美希病院
所属学会
日本医師会 産業医
日本循環器学会 循環器専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医
日本内科学会 総合内科専門医
糖尿病性ケトアシドーシスの原因(後編)
インスリン不足の直接的な原因のほかにも、身体のストレス状態が発症を引き起こすことがあります。このセクションでは、感染症や生活習慣に関連した引き金について解説します。
感染症や身体的ストレスが発症を促す理由
感染症は糖尿病性ケトアシドーシスの重要な誘因の一つです。肺炎・尿路感染症・敗血症(細菌が血液中に侵入して全身に広がる状態)などの感染症が発症のきっかけになることが多く報告されています。感染症にかかると、身体はストレスホルモン(コルチゾール・アドレナリン・グルカゴンなど)を大量に分泌します。これらのホルモンはインスリンの働きを妨げたり、肝臓での糖の産生を促したりする作用を持つため、血糖値が急激に上昇します。同時に、インスリンの必要量が普段よりも大きく増えるため、普段の投与量では対応しきれなくなることがあります。
手術や外傷(ケガ)、心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)なども同様に身体的ストレスとなり、ストレスホルモンの分泌を通じて発症を促す可能性があります。「風邪をひいたときも管理に気をつけるように」と医師から指導を受けることがありますが、これは感染症が糖尿病の状態を大きく揺るがしうることを示しています。糖尿病の方が体調を崩したとき、特に嘔吐や下痢が続いて十分に食事が取れない状況では、インスリンを自己判断で止めずに、早めに医療機関へ相談することが重要です。
生活習慣・薬剤・その他の原因
生活習慣に関連した要因としては、大量の飲酒が挙げられます。アルコールには肝臓における糖の産生を抑える作用がある一方で、ケトン体の産生を増加させる可能性があります。また、飲酒中は食事をしっかり取れないことも多く、インスリン投与のタイミングや量が乱れやすくなるため、リスクが高まります。
薬剤が関連することもあります。SGLT2阻害薬と呼ばれる血糖降下薬は、腎臓から糖を尿に排泄することで血糖値を下げる薬ですが、この薬を使用している場合、血糖値が著しく高くない状態でもケトアシドーシスが発症することがあります(「正常血糖ケトアシドーシス」と呼ばれます)。このため、SGLT2阻害薬を使用している方は、通常の糖尿病性ケトアシドーシスとは異なる形で発症することがあり、より一層の注意が必要です。発熱や下痢などで食事が十分にとれない「シックデイ」の際は、薬の内服を一時的に休止するよう指導されることが一般的ですので、主治医の指示に従ってください。
そのほか、ステロイド薬の使用、甲状腺疾患などの内分泌疾患の合併、膵臓への炎症なども引き金になりえます。さらに、精神的なストレスや睡眠不足が続くことで血糖コントロールが乱れ、間接的に発症リスクを高めることもあります。原因は一つとは限らず、複数の要因が重なって発症することも珍しくありません。
まとめ
糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病を抱える方にとって決して遠い存在ではない、深刻な病態です。しかし、その仕組みを理解し、原因となる引き金を把握したうえで日々の管理を丁寧に続けることで、発症リスクを大幅に下げることができます。症状のサインに気づいたときはためらわず医療機関へ相談し、専門の医師とともに適切な対応を取るようにしましょう。本記事が、糖尿病と向き合う方やそのご家族にとって、正しい知識を得るための一助になれば幸いです。
参考文献
厚生労働省「糖尿病」
糖尿病情報センター「糖尿病の急性合併症のはなし」
MSD Manuals「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」
- 「糖尿病の初期症状」として「足」にどんな症状が現れるかご存知ですか?【医師監修】
──────────── - その発熱、“様子見”は『危険』かも―― 感染症と熱中症、早く受診しないと「できなくなる3つのこと」【救急医解説】
──────────── - コーヒーを飲むと“あの臓器”の血流が減る? 気になる健康効果と適正量【医師解説】
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