
監修医師:
前田 広太郎(医師)
2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。
腺腫様甲状腺腫の概要
腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)は、甲状腺において多数の結節(しこり)が出現し、過形成(正常細胞の数が増加すること)と腫瘍性の変化が混じっている良性の病変で、病理学的な診断名を示します。病理学的には、甲状腺濾胞上皮が過剰に増殖し、嚢胞ができて、出血・壊死・線維化・石灰化などが混じり、腺腫(腺細胞が増殖し腫瘍になること)と過形成の間のような形をとります。かつて腺腫様甲状腺腫という名称は、日本国内では一般的に用いられていました。しかし、世界的には1970年代以降、この用語の使用は急速に減少しています。2022年WHO分類(第5版)では、新たに「甲状腺濾胞結節性疾患(thyroid follicular nodular disease)」という包括的用語が導入され、これには従来の腺腫様甲状腺腫を含む、多結節性甲状腺腫、多発性過形成結節、腺腫様結節、コロイド結節などが含まれます。つまり、国際的には「腺腫様甲状腺腫」という用語は徐々に使用されなくなり、「甲状腺濾胞結節性疾患」という概念に統一されつつあるのが現状です。甲状腺癌取扱い規約第9版では、腺腫様甲状腺腫は「甲状腺濾胞が多結節性に増殖し腫大する病変で,単結節性のこともある。」と記載されています。症状としては、多くの場合無症状で、頸部腫大(甲状腺の腫れ)や圧迫感、嚥下障害、声の嗄声などが後期に現れることがあります。ホルモン分泌異常(機能性結節)として、甲状腺機能亢進症を引き起こすこともありますが、基本的には甲状腺機能異常は伴いません。
腺腫様甲状腺腫の原因
甲状腺腫瘍は良性腫瘍、低リスク新生物、悪性新生物の3段階に分類され、腺腫様甲状腺腫は良性腫瘍に分類されます。2022年の第5版WHO分類では、甲状腺濾胞結節性疾患(thyroid follicular nodular disease)に包括されることとなりました。
腺腫様甲状腺腫の原因は不明ですが、びまん性甲状腺腫から発生するという説が有力です。腺腫様甲状腺腫は甲状腺内に結節が多発する疾患であり、腺腫の様に増殖を示す部分、過形成を示す部分、およびほとんど正常の部分が混在します。病理所見として、肉眼的には数個の結節を認めることが多いです。結節はしばしば出血、壊死、嚢胞形成、結合織増生、石灰沈着などがみられます。病理学的には腺腫は腫瘍ですが、腺腫様甲状腺腫は主に過形成であり、区別されます。違いとして、腺腫の結節は孤立しており、被膜で包まれ、全体が均一な組織像ですが、腺腫様甲状腺腫は結節が多発し、被膜で包まれず、結節内の構造が多様であることが違いです。

