
藤本タツキ氏の傑作青春漫画を是枝裕和監督が手掛けた実写映画「ルックバック」(9月11日公開)の完成報告イベントが8月20日に行われ、W主演の出口夏希と蒔田彩珠、幼少期を演じた七瀬ふうりと岡田六花、そして是枝監督の5人が登壇した。
漫画への情熱で結ばれた2人の少女の13年間にわたる成長と喪失を描く本作。撮影は秋田県にかほ市で四季を通して敢行され、繊細な少女たちの軌跡が美しい映像とともに刻み込まれている。
挨拶に立った出口は「みんなで心を込めて作り上げてきた作品です」と笑顔を見せると、1年という贅沢な時間をかけて丁寧に作ったという蒔田は「ようやく完成報告ができてすごく嬉しい」と晴れやかな表情を浮かべた。
作品を一足早く鑑賞した感想について、出口は「始まる前から今までにない緊張感がありましたが、画面に映るにかほの景色や私たちが現場で見ていたものがそのまま美しく映し出されていて、自分が出ていることを忘れちゃうくらい見入ってしまいました」と感無量の様子。蒔田も「子役の2人のお芝居を見ていて感動しました。現場で頑張っていたのを知っていたからこそ、なんだかほっこりしました」と振り返った。
■子役・七瀬ふうりが是枝監督を撮影セットから追放!? 驚きの現場裏話
また、オーディションで見事に幼少期の役を射止めた七瀬は、オファーを聞いた瞬間を「嬉しすぎて家の中でピョンピョン飛び跳ねた!」とキュートに告白。是枝監督も「一次オーディションで会場に来た瞬間、スタッフ全員が『あ、藤野だ』と思った」と絶賛した。
しかし現場では、台本を持たせず口伝えで演技を指示する是枝監督に対し、七瀬が「自分でやるから出来上がるまで監督は出て行って」とセットから追放したという強烈な裏話が発覚。是枝監督が「セットを出て行ってと言われたのは初めて(笑)」と笑うと、七瀬は「監督に完璧な状態で見せたかったから」と必死に弁明し、劇中の藤野さながらの負けん気と情熱で会場を大いに沸かせた。
一方、京本の幼少期を演じた岡田も「監督は一言で言えば人格者。現場もスタッフさんがお菓子を分け与えてくれたりして温かかった」と感謝を口に。岡田は元々デジタルで絵を描くのが得意だったといい、七瀬から「レベチに上手だった!」と褒められると照れ笑いを浮かべた。

■作中の「ペン音」へのこだわりと、京本の下の名前に込められた想い
「漫画を描く」シーンの表現について問われた是枝監督は、原作者の藤本タツキ氏と面会した際にプロのアシスタントが描く迷いのないペンの音に衝撃を受けたエピソードを披露。「原作の漫画にはない“音の変化”を録ろうと考えました。ひとつの音が二人になり、また一人になり、デジタルの音へ変わっていく。音の変化で二人の成長を描くのが狙いでした」と明かした。
これに対し、役作りのためにひたむきに作画練習を重ねたという出口は「手にマメができるくらい練習しました。最初は細い頼りない線しか描けなくて……ひたすら描いて覚えていきました」と苦労を吐露。蒔田も「撮影の4カ月前から練習を始めて、毎回出される課題を徹夜で描いて撮影に行くこともありました」とハードな準備期間を振り返った。
さらにイベントでは、原作では明かされていなかった京本の下の名前が「奏(かなで)」と命名されたことも発表された。是枝監督は「藤本先生から提案いただいたお名前です。京本の描く漫画が“音”を連れてくるという部分を踏まえ、藤野の描く漫画との違いを強調するために考えてくださったのだと思います」と、作品の世界観をより深める重要なピースであることを明かした。

■藤本タツキ氏からの絶賛コメント&米津玄師ら豪華クリエイター陣の参加
終盤には、ひと足先に試写を鑑賞した原作者・藤本タツキ氏からの胸熱なコメントが代読された。藤本氏は「是枝監督特有の俳優が持つ所作やカメラの動きで、原作のテイストを崩さずにリアリティを持って出すことができていて感動しました。道具の使い振りやペンの気持ちいい音、生活感から二人が本当に生きている証拠のように見えた」と絶賛。この言葉に是枝監督も「こだわった部分を本当に褒めていただけてホッとした」と胸をなでおろした。
また本作は、9月に開催される「第83回ヴェネチア国際映画祭」コンペティション部門への正式出品も決定しており、登壇したキャスト陣も現地への渡航を楽しみにしている様子を見せた。出口は「みんなの思いを私たちがヴェネチアへ持っていきたい。ぜひ美しい景色と音と、私たちが目で見たすべてを感じてほしいです」と力強く呼びかけた。

◆取材・文=永田正雄

