
昆虫学者であり、昆虫ハンターとしてテレビやYouTubeで活動する牧田習が8月21日、都内で取材会を実施。8月上旬にインドネシアとタイを訪れた牧田が、現地で行った昆虫調査や国際学会での研究発表について報告した。インドネシアの村では、日本でも子どもたちに人気のコーカサスオオカブトをはじめ、さまざまな昆虫と出会った一方、密猟の現実を見たという。
■日本の子どもたちにも人気のコーカサスオオカブトが、夜になると次々と…
東京大学で農学を研究し、博士号を取得。テレビ番組などにも出演する昆虫ハンターの牧田は、8月1日から5日にかけて、日本環境教育フォーラム(JEEF)の協力のもと、インドネシアのグヌン・ハリムン・サラク国立公園を訪問。公園内にあるマラサリ村で昆虫調査を行った。
ジャカルタから車で5、6時間ほど山道を進んだ先にあるというマラサリ村。昼の調査ではメダマチョウやアゲハチョウの仲間、数々のトンボなどを。夜の調査では日本でも人気のコーカサスオオカブトや、金色に輝くオウゴンオニクワガタなども姿を見せたという。
特にコーカサスオオカブトは、マレーシアでは3、4日探して1匹見つかればいいほどだというが、マラサリ村では乾季にもかかわらず「毎晩すごい数」の昆虫を見ることができたという。「素晴らしい場所だなと思った」と振り返る一方、調査を進める中で、豊かな自然とは別の現実も見えてきた。

■1匹1500円のコーカサスオオカブト、その先にある日本
牧田は約10年前から東南アジア各地で昆虫の調査を続けているが、各地で昆虫が減少していると説明。その背景には開発などに加え、「販売目的の密猟」があると指摘。マラサリ村では、現在もコーカサスオオカブトなどの密猟が行われていることが分かったという。
コーカサスオオカブトは1匹約1500円で売買されている。現地の一般的な月収が約3万円であることから、「1匹で月収の20分の1が稼げてしまう。それを止めろというのは難しい」と牧田。20年以上前は、村人が昆虫を売って、日本車を買うほどだったらしい。現在、インドネシアでは許可なく昆虫を捕獲して海外に販売・輸出することは禁止されているが、現実には密猟はなくならない。
さらに牧田が気になったのが、捕まえられた昆虫がどこへ行くのかということ。現地での聞き取りから、売り先は日本である可能性が高いという。「日本は世界的に見ても昆虫好きが多い国ですが、その裏で、違法に採集された個体が日本に入り込み、ペットショップなどで区別されずに売られている現実があります」と説明した。
現地の訪問者ノートには、日本から来たバイヤーと見られる人物の名前も残されていたという。「日本で売られている昆虫は、どこから来たのか」。日本の子どもたちが憧れる外国産のカブトムシやクワガタムシも、その背景までたどると、現地の自然や人々の暮らしとつながっている。そこで牧田が考えたのが、「捕って売る」のではない昆虫との付き合い方だった。

■「虫を捕る」のではなく「虫を見に行く」エコツーリズム
牧田が提案するのは、昆虫そのものを観光資源とするエコツーリズムへの転換だ。「子どもたちにとってはこういう昆虫はすごく貴重なもので、夢のような光景を見られると思います。ただただ虫を見るだけではなくて、昆虫を観察することで熱帯雨林であったり、環境問題について理解を深めることができるのではないかと思っています」と牧田。
密猟して昆虫を外国に売るのではなく、訪問者と一緒に昆虫を探し、ガイドとして森や昆虫について伝える。その仕事で生活できるようになれば、「虫を守ること」が村の人たち自身の生活を守ることにもつながる。「密猟をせず、村の虫たちを守っていくことが、自分たちの生活を支えることにもなるということが、このエコツーリズムによって村の人たちにも理解されていくのではないかなと期待しております」と語った。
もちろん、すぐに観光地として成立するわけではない。現時点では受け入れのためのインフラも十分ではなく、NGOや現地の村と協力して、ビジターセンターを作ったり、空き家を宿泊施設として活用したりする必要があるという。
日本人が個人で訪れるのはまだ難しいというが、だからこそ現地と一緒に受け入れ体制を整えていくことが必要。「密猟からエコツーリズムへ、マラサリ村をモデルケースに」と語り、「日本という大きな市場がある以上、消費者の意識も変えていかなければいけないと思います」と呼びかけた。


■地球温暖化で「南の蝶」が北へ
続いて牧田は、8月6日にタイ・プーケットで開催された「国際学会 SAGE 2026」で行った研究発表について説明した。
発表テーマは「南日本におけるチョウ相の変動と将来予測」。牧田が博士課程の頃から研究している「迷チョウ」がテーマとなっている。迷チョウとは、本来その地域には生息していない蝶が、台風や偏西風などに乗って運ばれてくる現象のこと。通常は一時的な飛来だが、温暖化によって日本の南西諸島や九州などの環境が変化し、これまで一時的にやって来ていた蝶が、その場所で暮らせるようになる「土着化」が起きているという。
牧田は沖縄の平均気温が上昇傾向にあることなども示し、「19世紀から変わらないと考えられてきた生物地理境界線を、多くの蝶が越えて北上しています」と説明。温暖化が進めば、これまで地域ごとに違っていた生物の分布が似通っていく「均質化」も進むと考えているという。
「地球温暖化はじめ気候変動が、蝶たちが日本に住むようになったことをプッシュしているのではないかと考えました」と牧田。昆虫の分布の変化を追うことで、気候そのものの変化も見えてくるとした。
■「昆虫は環境の鏡、昆虫を通じて環境問題を身近に感じてほしい」
インドネシアでは、子どもたちが喜びそうなコーカサスオオカブトが次々と姿を見せる一方、その昆虫を捕って売ることで生計を立てる人たちがいる現実も見た。タイでは、蝶の分布が変化していることをデータから示した。一見すると別々に見える2つの話だが、どちらも昆虫を通して環境の変化を考えることにつながっている。
「日本の暮らしが世界の森や昆虫の減少とつながっていること、そして昆虫は環境の鏡であるということです。昆虫を通じて環境問題を身近に感じてほしいです」と牧田は語った。
◆取材・文=鈴木康道


