
おいしい給食を食べることに教師生活を捧げる市原隼人主演の「おいしい給食」。テレビドラマはシーズン3までシリーズ化され、劇場版は10月24日(金)に第4作目となる「炎の修学旅行」が公開される。「炎の修学旅行」はシーズン3、劇場版「おいしい給食 Road to イカメシ」から続く作品となり、BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料)では劇場公開前に、10月6日の夜2時からこのシーズン3の放送を開始、TVerでも一挙配信を行っている。北海道・函館の地で撮影したシーズン3の思い出、現場の秘話、そして、“私たちの夢”と語る「おいしい給食」への情熱を市原に聞いた。
■「おいしい給食」は「私たちの夢」と言い切れる作品
――今回の「炎の修学旅行」で7作目。長いシリーズとなりましたが、この作品にどのような思い出や思い入れがありますか?
もう、夢です。私たちの世界はビジネスと夢が混沌としていて、やはりビジネスが先行しなければ作品は作れません。ですが、なんとしてでも、やっぱり夢でありたい。いろんなしがらみを乗り越えて、どこまでもお客様本位でありたいというのが正直な思いです。
それを成し得たのがこの「おいしい給食」という作品であり、本当に家族のように、全てのスタッフ、キャストと固い鉄の絆で結ばれて作っています。そして、お客様から温かいお言葉をいただく中で、お子様が見ても目を背けさせるシーンがないように、また人生のキャリアを積まれた方にはしっかりと胸に届くような、社会的なメッセージや道徳、人間愛に溢れる作品を目指してきました。「おいしい給食」は、私たちの夢です。本当にそう言い切れる作品です。
――ドラマ版はシーズン3まで、劇場版は次の「炎の修学旅行」で4作目となります。
奇跡です。ひとえにこの作品を好いてくださるお客様のお気持ちの賜物ですので、そんな皆様に恩返しがしたいという思いでいっぱいです。街で「甘利田先生!」と声をかけていただくこともあり、「大好きです」と言われたときは涙が止まらなくなりました。
けっして順調に続いたわけではなく、劇場版2作目「卒業」のときにはコロナ禍になり、撮影も止まって悔しい思いをしたことがあります。エンターテインメントこそ人の力になれると信じてきたのに、力になれない。そのときの思いを持って、もう一度エンターテインメント、作品と向き合い、何のために作り、何を伝えるべきなのかを見つめ直して臨んできた作品です。
■楽しませるために、笑われ者になりたい

――甘利田先生という役柄は、それまでの市原さんのイメージをガラッと変えた部分もあると思います。
どうなんでしょうか。私は全ての役に全力を注いでいるだけです。甘利田先生は給食に振り回され、滑稽な姿を見せながらも、好きなものを「好き」と胸を張って人生を生きる。そして子どもに負けたら素直に負けを認められる。そんな先生が、「今日負けても、明日こそは絶対楽しむんだ」と前を向く。その姿をご覧いただいて、大いに笑って、活力にしていただきたい。純粋にその思いしかありません。
チャップリンの言葉で、近くで見ると悲劇でも、ちょっと俯瞰で見ると全てが喜劇になる。甘利田先生にとっては世界の終わりのような悲しみも、俯瞰で見るとカレーがこぼれたり、大好きな給食を奪われたりといった喜劇なんです。
キャリアを重ねると芝居を突き詰めるニッチな方に行きがちですが、「おいしい給食」はどこまで行っても誰もが楽しめるキング・オブ・ポップでありたい。皆様に楽しんでいただく王道のエンターテインメントでなければいけないというのは常に考えています。
――甘利田先生を演じる楽しさはどんなところにありますか?
この「おいしい給食」の素晴らしいところは、原作がないことです。ですから、現場で色々なことを流動的に、自分たち発信で作っていけます。アドリブばかりで、給食をどういう風に食べるかは、台本には一切ありません。給食を前に高揚して踊りだしてしまうのも、私が勝手にやっているだけなんです。酔っ払って酔拳をしたこともありましたが、あれも一切台本には書いてない。私が勝手に動き出したシーンです。そういう作り上げる楽しさが、甘利田先生の醍醐味です。
――役者冥利に尽きる役、という感じですね。
給食を食べているだけなのに何回も意識が飛んだりしますけどね(笑)。甘利田先生はかなりハードに動くので怪我が絶えません。使われないカットもたくさんありますが、そうやって一日一日を紡いで、毎回全てを出し切る。「今日も一日乗り越えた」と、そういう気持ちを持てるのは本当に役者冥利に尽きることだと思います。
■給食は全ての子どもたちの青春、エンターテイメントの時間

――作品の舞台は1980年代後半です。市原さんが生まれたくらいの時代ですが、この時代の給食を体験してみてどんな感想を持ちましたか?
一緒なんです。ソフト麺、クジラの竜田揚げ、揚げパン、わかめご飯とか、私の子ども時代も変わらない王道の給食だったので驚きました。そして、懐かしい気持ちになりました。給食は地域によって、世代によっての違いもある。「ええ、そんなおかずあったの?」「それ、うちの方もあった」といった会話になる。給食という、ありそうでなかった面白い題材に着目されたなと思いました。
――給食は同世代でも、違う世代とでも、鉄板の話題になりますよね。
全ての子どもたちの青春だと思えます。この作品が皆様の青春となって、いつでも思い出せる温かい家のような存在になりたいです。誰もが通る給食というツールを通して味わえる、日本人の原体験というか、青春がここにあるのを感じています。

――1980年代の子どもは今のように気軽に外食ができるわけでなく、給食は家以外で食べる特別な食事でした。市原さんにとって給食とはどのようなものでしたか?
生きるために食べるか、食べるために生きるか。私は後者で、食べるために生きたい。それほど給食の時間が大好きでした。義務教育の中で唯一、ご褒美のように「さあ、皆さんで楽しんでいいですよ」と言われているような、エンターテインメントの時間という感覚でした。班に分かれ、牛乳が余れば牛乳じゃんけんをして、お代わりを食べるために並んだり。給食の時間ならではの独特で、特別な時間でした。「誰よりも早く食べる人がかっこいい」とか、よく分からないことを思っていましたね(笑)。
――早く食べるためにパンを丸めたりしていました(笑)。
そうそう! 色々な工夫を編み出しましたね。なんの意地なのか分からないけど、きっと、あのときだけの無垢な心だからできたことかもしれません。
――甘利田先生が折々で伝えてくれますが、食育のメッセージも大切にされている作品です。
この作品でも伝えている「地産地消」というものがあって、地域によってこれだけ食材が違うのかという発見が大きかったです。「おいしい給食」では函館、今回は青森、岩手に行きましたが、日本は広いと改めて感じています。そして、その地域の経済や、将来残しておきたい産物、そこにある歴史と文化、それを支える農家の方たちの努力まで見えてくる。給食って、色々なことを考えられて作られているのだと、大人になって分かることも多いです。

■シーズン3は「おいしい給食」の新たな門出となった作品
――BS12 トゥエルビではシーズン3が放送中、そして、10月24日(金)夜8時から劇場版「おいしい給食 Road to イカメシ」が放送されます。この2作はシリーズの中でどんなポジションの作品でしょうか?
シーズン3は初めて遠征をした作品です。シーズン2までは関東近郊で、地名を明かさずに撮影してきましたが、シーズン3で初めて函館という地名が出ました。それまで40度を超える真夏での撮影でしたが、シーズン3では台本の冒頭に「私は極端に寒がりだ」とあって、震えながら登場する新しい甘利田先生の姿に私自身もワクワクしました。まさか函館まで飛ぶとは思っていませんでしたし、こんな経験をさせていただけたのも今作を好いてくださったお客様のお気持ちのおかげで、「おいしい給食」の新たな門出となった作品です。
――撮影はどんな風に進行しましたか?
子どもたちの撮影は夜8時までなので、先に引きの画(え)や子どもたち中心の画を撮って、甘利田先生が食べるシーンは、みんなが帰ってから、1人でポツンと最後に撮るんです。どういう辱めなのか(笑)、しかも長回しで。色々な角度から撮るので、最低3回戦。きれいに完食して3回です。そして、編集で8割カットされるという(笑)。
そういう裏側なので、給食シーンの日は一日中食べています。アドリブも前日に何パターンかのプランを考えて、当日の朝、監督にプレゼンします。だからもう、寝られないです。「イカメシ」も「いつもの戦いが来たな」という思いでした。でも、海から始まって、「『おいしい給食』が北海道に来た!」というのは胸熱でした。
■撮影裏話、子どもたちとの交流が記憶に強いシーズン3

――撮影中、思い出に残っている出来事はありますか?
シーズン3は、子どもたちとの交流が特に記憶に残っています。撮影は関係なく、子どもたちとまず最初に函館山に登ったんです。衣装スタッフさんが、「せっかくだから、みんなで観光しようよ」とロケバスの人たちと結託してくれて。撮影の前日に函館山に登ってみんなで記念写真を撮ったり、函館にしかない「ラッキーピエロ」に行ってみたり。
この作品は子どもたちこそが主役なので、「現場に来たい」「芝居をしたい」「みんなに会いたい」と思える環境作りを一番に考えています。その上で、「一生懸命にモノを作り、お客様に提示するって、こうしてみんなで作ることから生まれるんだよ」ということを、大人の役目として見せたいと常に思っています。
そうするとみんな本当に生き生きして、カットがかかったら子供らしい素に戻る。カットがかかってもみんな楽しく給食を食べているんです。子どもたちにとっても幸せで待ち遠しい撮影時間になっていて欲しいと思いました。
■プリンの「プルンッ!」に苦戦、衝撃だった納豆もなか
――シーズン3で出てきた給食で、印象深いものや衝撃だったメニューはありますか?
プリンの撮影が大変でした。本当に大変でした。プリンを落として、「プルンッ!」と撮れるまで、深夜までずっと撮影です。硬さの違うプリンを何個も何個も試して、OKが出たとき、みんな大歓声です。あれは今でも忘れられない記憶です。「おいしい給食」は人間臭く、泥臭く、生の画を撮っています。その撮影風景をぜひお見せしたいぐらいです。
他では、北海道と言えばの味噌ラーメン、わかさぎのフリッター、イクラ…どれも記憶が強くて選べません。
――私が衝撃だったのが、納豆もなかです。
ああ、納豆もなか! あれ、私も初めてで、「え、え!?」と思いました。「もなかの中が納豆!?」って。
――見ていて衝撃すぎて、ぜひお聞きしたかったんです。
それは私も同じ思いでした(笑)。「なんで、もなかに納豆を入れているんですか?」って。地域特有のそういう食べ方だとおっしゃっていて、でも美味しいんです、不思議と。スイーツとして食べるのか、おかずなのか、不思議な思いで頂きました。
■本当の意味で“整った”岩手の藤三旅館、源泉かけ流し100%の名湯

――シーズン3と「Road to イカメシ」は、最新作の劇場版「炎の修学旅行」の前日譚という位置づけでもあります。公開を控えるお気持ち、見どころはどんなところになるでしょうか?
まず何よりも、シリーズが続かなければ味わえなかった醍醐味を味わわせていただけました。シーズン1のヒロイン、御園ひとみ(武田玲奈)先生が帰ってきてくださったのもすごく嬉しいです。甘利田先生の良さは“変わらないこと”だと思っていて、そうして変わらないでいつづけたからこそ、御園先生がまた甘利田先生の前に現れてくれたのかなと思います。
函館に行けたのも奇跡だと思いましたが、今回は青森、岩手に遠征で、わんこそば、せんべい汁をいただきました。わんこそばが本当に美味しくて、岩手の「初駒」さんというお店にお邪魔したのですが、撮影が終わってからお店の方のご厚意で、子どもたちにわんこそばをチャレンジさせていただけたんですよ。「僕120杯食べられました!」「私80杯しか食べられなかった!」って、すごく嬉しそうに話してくれて、愛がある現場を作ってくださって本当に感謝しています。
青森では、綺麗な空と緑が美しい十和田湖でいただくせんべい汁。給食のために学校に通っていると言っても過言ではない男が外食をする話でもあって、だからこそ初めて火を使ったり、熱々のものをいただく。これは甘利田先生にとって初めての経験で、お客様にも楽しんでいただけるシチュエーションが山ほど収められています。
――修学旅行の楽しさを思い出しますね。
岩手の藤三旅館という、立ち湯で有名な温泉でも撮影していまして、これは本当の意味で私が“整った”場所です。「整うってこういうことか!」と。日本にわずかしない源泉かけ流し100%の素晴らしい温泉で、600年の歴史を刻む名湯です。
宿ではライバル生徒の粒来ケン(田澤泰粋)くんと卓球をするシーンがあるのですが、2人とも未経験だったのでプロの方に習い、そのあと2人でショッピングモールの卓球コーナーで、長いときには1日6時間くらい練習していました。練習終わりは一緒にご飯を食べに行って、そういう時間がまた愛おしかったですね。修学旅行ならではの、撮影を外れても先生でいるような、今までにない役作りでした。今回はいつも以上に見どころ盛りだくさんですので、ぜひ劇場に足を運んでくださると嬉しいです。
◆取材・文=鈴木康道

