名優二人による贅沢な読み聞かせ時間
松野家が抱える多額の借金を返済するため、銀二郎は身を粉にして働く。借金をこさえた張本人であるトキの父・司之介(岡部たかし)は銀二郎を盛んに「婿殿」と呼ぶが、借金取りからは「馬車馬殿」というあだ名でからかわれる。自分は馬車馬になって働くために婿入りしたのか。何だかなぁと少しは思ったかもしれないが、銀二郎は懸命に働き、松野家を支え、妻であるトキにも優しい。みんなが寝静まった夜な夜な、銀二郎はトキに怪談を聞かせる。
優しい婿殿の読み聞かせ時間。そういえば、寛一郎が小学校を卒業する謝恩会で、祖父・三國連太郎と父・佐藤浩市が朗読劇を披露したらしい。名優二人による何と贅沢な読み聞かせ時間なのだろう。
所属事務所ユマニテの戦略
SNS上でも「お父さんに似てきた」といったコメントがたくさんある。確かに目鼻立ちは佐藤浩市、顔形は三國連太郎の面影がある。寛一郎は父と祖父のハイブリッドである。第3週第12回にそれを強く思わせる場面がある。トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)に武道の稽古をつけてもらった銀二郎が、水辺に座り込んでいる。眉間に皺を寄せる表情は佐藤浩市っぽい。そこへきたトキを見上げる笑顔には三國連太郎の色っぽい優男感が宿る。
こうしたハイブリッドな魅力は、寛一郎の大きな強みではあるが、一方で彼独自の存在感をあぶり出すため、所属事務所ユマニテは戦略的に出演作を采配しているように思う。
俳優デビューの翌年に出演した瀬々敬久監督作『菊とギロチン』(2018年)、北野武監督作『首』(2023年)、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した『ナミビアの砂漠』(2024年)など、作家性が強い映画作品への出演を着実に重ねている。
その上で今回の朝ドラ主人公の最初の相手役をベストなコンディションで演じている。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

