日々の食事が、脳の健康に影響を与えているとしたら、どうでしょうか。糖質の過剰摂取による血糖値の乱れ、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸による慢性的な炎症、塩分やアルコールの摂りすぎによる血管へのダメージなど、何気なく続けてきた食習慣が脳に影響を及ぼす可能性について解説します。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
脳の健康を損なう食事|アルツハイマー型認知症リスクを高める食習慣
このセクションでは、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるとされる食事の特徴について具体的に解説します。何気なく続けている食習慣が、脳の健康に影響を与えている可能性があります。
糖質の過剰摂取と脳への影響
糖質を過剰に摂取し続けると、血糖値が急激に上下する「血糖値スパイク」が起きやすくなります。この急激な血糖値の変動は、脳の血管にも負担をかけます。血管が傷つくと、脳への血流が不安定になり、神経細胞に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。
さらに、アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病(3型糖尿病)」という比喩で表現されることがあるほど、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きと深い関係があると考えられています。インスリンはアミロイドβの分解にも関与しているとされており、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が高まると、アミロイドβの排出が低下する可能性があります。白米・パン・甘い飲み物・菓子類などを日常的に大量に摂取している方は、この点に注意が必要です。
特に問題とされるのが「果糖(フルクトース)」を多く含む加工食品や清涼飲料水です。果糖は通常の糖質とは代謝経路が異なり、肝臓での脂質合成を促進し、インスリン抵抗性を引き起こしやすいとされています。砂糖の多い加工食品を控え、食物繊維を含む食品と組み合わせて血糖値の急上昇を抑えることが、脳の健康を守るうえで重要です。
飽和脂肪酸・トランス脂肪酸と炎症の悪循環
脂質の種類によっても、脳への影響は異なります。特に注意が必要なのは、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸です。飽和脂肪酸は牛肉・豚肉の脂身、バター、生クリーム、ラード(豚脂)などに多く含まれます。過剰に摂取すると、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増えやすくなり、動脈硬化を引き起こすリスクが高まります。動脈硬化は脳血管にも影響を与えるため、間接的にアルツハイマー型認知症のリスクとも関連があると考えられています。
一方、トランス脂肪酸はマーガリン・ショートニング・市販の菓子パン・揚げ物など、加工食品に多く含まれます。トランス脂肪酸は体内で炎症を促進する作用があるとされており、脳内の慢性的な炎症がアルツハイマー型認知症の進行に関与するとの見方があります。慢性炎症は神経細胞の死滅を加速させる可能性があるため、できる限り避けることが望ましいとされています。
日常的に惣菜やファストフード、インスタント食品を多く食べている方は、知らず知らずのうちにトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を過剰に摂取している可能性があります。食品の原材料表示を確認する習慣をつけることも、脳を守るための一つの行動といえるでしょう。
塩分過多・アルコール過剰摂取がもたらすリスク
塩分の過剰摂取は高血圧を招き、脳の血管に持続的な負担をかけます。高血圧は血管性認知症だけでなく、アルツハイマー型認知症のリスクとも関連があることが報告されています。脳内の細い血管が傷つき、脳への血流が低下すると、神経細胞の維持が難しくなります。日本人の食事は醤油・みそ・漬け物など塩分を多く含む食品が多いため、意識的な減塩が求められます。
アルコールについては、少量の適度な飲酒と認知症リスクの関係は研究によって見解が分かれていますが、過剰な飲酒が脳に悪影響を与えることは広く認識されています。長期的な多量飲酒は、脳の萎縮を促進し、神経細胞を直接傷つける可能性があります。また、アルコールの過剰摂取はビタミンB1などの栄養素の吸収を妨げ、脳の代謝機能にも支障をきたします。
「少し飲むくらいなら問題ない」という感覚で毎日飲酒している方は、量と頻度を改めて見直すことが大切です。休肝日を設けることや、飲酒量を減らす取り組みは、脳の健康維持にも意味があります。
まとめ
アルツハイマー型認知症は、日々の食事・睡眠・運動・人とのつながりといった生活習慣と深く関わっています。特に50代は、ホルモンバランスや生活習慣病のリスクが重なる重要な時期です。脳を守るための行動を早めに始めることが、発症リスクの軽減につながる可能性があります。気になる症状がある方は、脳神経内科や物忘れ外来にご相談ください。今日からできる小さな習慣の積み重ねが、将来の脳の健康を支えます。
参考文献
厚生労働省「認知症施策推進大綱」
国立長寿医療研究センター「認知症の予防」
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2026」
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