なぜ頭痛薬を飲みすぎると、かえって頭痛が悪化してしまうのでしょうか。「中枢性感作」と呼ばれる脳の変化や、痛みを抑えるブレーキ機能の低下など、薬物乱用頭痛のメカニズムを脳の視点からひもといていきます。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
薬物乱用頭痛の主な原因①——頭痛薬の過剰使用が脳に与える影響
このセクションでは、薬物乱用頭痛が生じるメカニズム、すなわち頭痛薬の使いすぎがなぜ新たな頭痛を引き起こすのかについて、脳の変化という視点から解説します。この仕組みを理解することで、薬の使い方に対する意識が変わるきっかけになると考えられます。
鎮痛薬の使いすぎが引き起こす脳の感作
薬物乱用頭痛が起きるメカニズムのひとつとして、「中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)」と呼ばれる脳の変化が挙げられます。中枢性感作とは、脳や脊髄の神経系が痛みに対して過敏になった状態のことです。通常であれば痛みとして感じない刺激でも痛みとして認識されるようになり、頭痛の閾値(痛みを感じるラインのこと)が低下した状態です。
頭痛薬、特に鎮痛薬を頻繁に使用することで、脳内の痛みを制御する仕組みが徐々に変化すると考えられています。本来、脳には痛みを自然に抑制する「下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)」と呼ばれるシステムがあります。これは脳に備わっている、痛みを和らげるブレーキ機能です。鎮痛薬に頼り続けることで、この自然な痛み抑制の働きが弱まり、薬がなければ痛みを感じやすくなると考えられています。
また、痛みに関連する神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスが乱れることも、薬物乱用頭痛の発症に関与していると考えられています。セロトニンは気分の安定にも関わる物質であり、薬物乱用頭痛の方に気分の落ち込みや不安感が見られることがあるのも、こうしたバランスの乱れと無関係ではないとされています。
長期使用による脳の構造的な変化
近年の画像研究(MRIなどを用いた脳の観察)によって、鎮痛薬を長期間乱用した方の脳には、痛みの処理に関わる領域に変化が生じている可能性が報告されています。前頭葉の一部(眼窩前頭皮質など)や、前帯状皮質・島皮質・視床など、痛みのコントロールに関わる脳の領域での活動パターンの変化が確認されたとする研究結果があります。
ただし、薬物乱用頭痛の多くは、適切な治療によって改善する可能性があります。脳の変化の回復しやすさは領域によって差があるものの、薬をやめた後に脳の変化が回復していくことを示す研究も報告されており、早期に治療を始めるほど改善が期待しやすいと考えられています。薬物乱用頭痛は「治らない病気」ではなく、適切な管理と治療によって生活の質を取り戻せる疾患です。
こうした脳の変化についての知識は、「なぜ薬をやめると頭痛が悪化するのか」「なぜ薬が効きにくくなるのか」といった疑問に答えるものであり、治療への動機づけにもつながります。薬を使いすぎている状態が長く続くほど回復に時間がかかる傾向があるとされているため、早めに医療機関に相談することが望まれます。
まとめ
頭痛薬を飲んでいるのに頭痛がよくならない、むしろ以前より頭痛が増えていると感じている方は、薬物乱用頭痛の可能性を考えてみてください。薬物乱用頭痛は、原因となっている薬をやめ、適切な治療と生活改善を続けることで改善が期待できる疾患です。一人で抱え込まず、神経内科や内科などの医療機関に相談することが、状態改善への大切な第一歩となります。まずは頭痛ダイアリーをつけることから始め、自分の頭痛と薬の使用状況を客観的に振り返ってみることをおすすめします。
参考文献
日本神経学会「頭痛診療ガイドライン2021」
日本頭痛学会「頭痛とは」
日本頭痛学会「頭痛疾患教育資材」
「ストレス | 生活習慣病などの情報」

