●法的な問題は別として、知らずに写真を扱われた人は不安を感じるはず
——著作権以外の権利はどうでしょうか。
肖像権侵害も話題に出ているようですが、肖像権侵害が成立するには、そのイラストから「本人を特定できること」が必要です。
江口さんの作品をすべて見たわけではありませんが、顔のパーツをデフォルメしたものも多く、すべてのケースで本人を特定できるかというと、そうとは言い切れないと思います。
ただし、やはり知らないところで自分の姿や輪郭が描かれていたら、不安や疑問を覚える人がいることもわかります。
相互に信頼関係やリスペクトがあることが傍からもわかるのであれば、よくあるファンアートの一環として処理される場合もありますが、そうした事情がない中でトレースする場合は、法的・社会的なリスクが伴うことは避けられないでしょう。
——なぜ今回の件はこれほどまでに「炎上」したのでしょうか。
SNSが普及し、AIによる作風模倣や、オリンピックエンブレム問題、同じくトレース問題が生じた古塔つみさんの件などが取り上げられた経緯から、デザイン盗用に対するネットユーザーの反応は、ネガティブに受け止め、燃え上がりやすいように思います。
その状況において、本人に連絡がなかったこと、イラストが自身の仕事であったこと、掘り下げてみたら過去にも同じケースがあったと拡散されたことなどは、炎上に拍車をかけていると感じました。
● 「見抜けない」納品物チェックがどこまでできる?
——企業側は今後、どのような点に注意すべきでしょうか。
発注の際、被害防止の方法として第一に思い浮かぶのは、契約書によるクオリティ・仕様の設定です。
権利侵害のないものは当然ですが、既存の作品と関係があると誤解を生むような作品ではないことや、万一参考にした作品がある場合には事前にリストを提出させるといった対応も必要になってくるかもしれません。
ただ、そこで問題となるのは、納品物が規定に違反しているかどうかを見抜くことができるかという点があります。
江口さんのケースでも、過去のイラストを掘り下げたら出てきたという投稿が多くみられます。つまり、当時はトレースだと気づかなかったのではないかと思います。
ただし、昨今は画像検索や、AI検知などの技術も登場していますので、契約書に条件を規定しているから問題ないと判断するのではなく、受け取った後の検査の過程で類似チェックを発注側でもおこなっておくことは、後日、権利侵害や炎上に巻き込まれることを思うならば、「注意一秒、怪我一生」ということで確認する体制を設けていてよいように思います。

