バルトリン腺嚢胞の診断は、問診・視診・触診が中心となり、多くの場合は大がかりな検査を必要としません。感染が疑われる場合には細菌培養検査が行われ、原因菌の特定に役立てられます。また、発症の背景には細菌感染だけでなく、分泌液の粘度変化や外傷、会陰切開後の影響なども関係することがあります。バルトリン腺嚢胞は女性であれば誰にでも起こり得る疾患であり、発症しても過度に自責する必要はないことを、診断の流れとともに解説します。

監修医師:
西野 枝里菜(医師)
東京大学理学部生物学科卒
東京大学薬学部薬科学専攻修士課程卒
名古屋大学医学部医学科卒
JCHO東京新宿メディカルセンター初期研修
都立大塚病院産婦人科後期研修
久保田産婦人科病院
【保有資格】
産婦人科専門医
日本医師会認定産業医
バルトリン腺嚢胞の診断と原因
デリケートゾーンに異常を感じた際、病院でどのような検査や診断が行われるのかをあらかじめ理解しておくと、受診への不安や心理的なハードルを大きく下げることができます。
診断の流れと検査内容
バルトリン腺嚢胞の診断は、主に問診と視診(目視で形や赤みを確認する診察)・触診(指で直接触れて硬さや痛みの程度を確かめる診察)によってスムーズに行われます。医師が外陰部の状態を詳しく観察し、左右どちらの部位にどのような大きさ・硬さの嚢胞があるか、押したときに強い痛みが走るか(圧痛)などを診定します。多くの場合、大がかりな画像検査(エコーやMRIなど)は必須ではありませんが、嚢胞が奥深くまで大きく広がっている場合や、周囲の組織との境界を詳細に確認する必要があると判断された場合には実施されることがあります。
もし赤みや強い痛みが伴い感染が疑われる場合(膿瘍化している場合)には、注射針などで嚢胞内の液体や膿(うみ)を少量採取し、細菌培養検査を行います。どの細菌が感染を起こしているか原因菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、クラミジア、淋菌など)を正しく特定することで、効き目の高い最適な抗菌薬(抗生物質)を選択することに役立ちます。また、性感染症が関与している疑いがある場合には、拭い液を用いた遺伝子検査などが追加されます。
40歳以上の方で初めてバルトリン腺に嚢胞やしこりができた場合や、通常の治療で改善が見られにくい場合には、嚢胞の内容物や組織の一部を採取して病理検査(顕微鏡で細胞の状態を精密に観察する検査)へ提出することがあります。これは非常に稀ではあるものの、悪性腫瘍(バルトリン腺がん)など他の病気との鑑別(正しく見分けること)を目的としたもので、安全な医療を提供するうえでの標準的な手順です。病理検査の結果に基づいて、今後の最適な治療・経過観察方針が決定されます。
発症に関与する主な原因と背景因子
バルトリン腺嚢胞が発症する直接的なメカニズムは、潤滑液を出すバルトリン腺のストロー状の管(導管)が詰まる(閉塞する)ことです。この管の閉塞を引き起こす背景には、いくつかの要因が絡み合っていると考えられています。
細菌感染は最も代表的な要因のひとつです。皮膚に常在している大腸菌や黄色ブドウ球菌などの細菌が導管の出口付近に入り込んで軽度の炎症を起こし、管が腫れて出口が塞がってしまうことがあります。また、性感染症の原因菌であるクラミジア・トラコマティスや淋菌が感染の引き金になることもあります。ただし、細菌感染がなくても、体調や体質によって分泌液の粘度が上がってドロドロになることや、下着の強い摩擦・微細な傷などによって導管が詰まることも少なくありません。
また、出産時の会陰(えいん:腟口と肛門の間)切開後の縫合や、デリケートゾーンの外傷によって嚢胞が形成されるケースも知られています。会陰部の組織が傷つくことで、バルトリン腺の繊細な導管が物理的なダメージを受けて影響を受けるためです。なお、特定の体質やホルモンバランスの変化、免疫力の低下が関係する可能性も示唆されていますが、明確な原因を一つに特定できない場合も多くあります。
バルトリン腺嚢胞は、特別な生活習慣の悪さだけで発症するものではなく、女性であればどなたにでも起こり得るごく身近な疾患です。「不衛生にしていたのではないか」「自分が悪いのではないか」などと過度に自責する必要は一切ありません。デリケートゾーンに気になる膨らみや違和感に気づいた際には、一人で悩まず早めに婦人科・産婦人科医療機関に相談することが大切です。
まとめ
バルトリン腺嚢胞は、女性に見られる疾患のひとつですが、適切な診断と治療によって改善が期待できます。初期症状は軽微であることが多く、「気にならないから大丈夫」と思ってしまいがちですが、放置することで膿瘍へと進展したり、症状が慢性化したりするリスクがあります。デリケートな部位の症状であるため、受診への抵抗感を感じる方もいるかもしれません。しかし、産婦人科・婦人科の医師は日常的にこのような疾患に携わっており、適切なサポートを受けることができます。気になる症状があれば、ひとりで抱え込まず、まずは婦人科への受診を検討してみてください。
参考文献
日本産科婦人科学会「産婦人科 診療ガイドライン ―婦人科外来編2020」国立成育医療研究センター「女性の健康総合センター」
厚生労働省「健康・医療高額療養費制度を利用される皆さまへ」
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