日本画に革命を起こした速水御舟~速水前と速水後で、日本画はこんなに変わった~

代表作『炎舞』が誕生! ~二度と描けないと語ったほどの奇跡~

炎舞炎舞, Public domain, via Wikimedia Commons.

御舟の最も有名な作品の一つが、1925年に完成した『炎舞』です。重要文化財に指定されているこの作品は、御舟の芸術が一つの高みに到達した傑作として高く評価されています。

この作品を描くため、御舟は軽井沢の別荘で3か月間滞在し、毎晩のように焚き火をして炎とそこに集まる蛾を観察し続けました。暗闇に舞い上がる火の粉と蛾の舞う様子を、金粉を膠と水を混ぜて溶いた「金泥」という顔料を使って、絶妙な色合いで緻密に描き出したのです。

『炎舞』で特に注目すべきは、背景の表現です。黒に朱を混ぜ、絵の具が絹面ににじむようにして描いた背景は、単なる黒色ではない「深い闇」を表現しています。「もう一度描けと言われても二度とは出せない色」と御舟自身が語ったほどの、奇跡的な表現なんですね。

描かれている蛾にも注目したいところです。蛾はすべて真正面向きに描かれているのですが、生きて飛んでいる感じが見事に表現されています。昭和天皇が『炎舞』を見て「蛾の眼が生きているね」と感想を述べたエピソードも有名です。

金を使った表現『撒きつぶし』 を活用

名樹散椿名樹散椿, Public domain, via Wikimedia Commons.

1929年の重要文化財『名樹散椿』では「撒きつぶし」という技法が使われています。

金箔を竹筒に入れて粉状にし振りまくことで、金箔や金泥とは異なる「しっとりと落ち着いた金地」を作り出せるのです。

「撒きつぶし」は、同じ面積に金箔を貼るのに比べて5〜6倍の量の金を使います。贅沢だな…とも思えますが、深みのある美しい金の輝きは観る人を魅了してやみません。

『名樹散椿』では、京都市北区の地蔵院にある樹齢400年と伝わる椿の老木を、「撒きつぶし」による金地の上に鮮やかな色彩で表現しています。
写実的な描写にキュビズムにも似た表現を取り入れた意欲作で、日本画の新たな可能性を示しました。

配信元: イロハニアート

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