●「受刑者だから」というバイアスを壊したい
──大きな批判を受けるリスクもあるのに、なぜ実名、顔出し?
「受刑者だから匿名であるべき」という前提自体がバイアスだと思うんです。受刑者が社会から切り離された特別な存在だとみなされること、それこそが、今回僕が提訴した「選挙権」の問題にもつながっています。
多くの人は車を運転していて、ちょっとした判断ミスで事故を起こし相手が亡くなれば、受刑者になり得ます。そして、論理的には正しい主張でも「いや、受刑者だから」という感情で却下される。
そうした偏見をなくしたい。受刑者だって最終的には社会に戻る一人の人間なんだと示したかったんです。
だからこそ、取材に応じる以上は実名、顔出しが筋だと思いました。批判されるリスクは覚悟の上です。
●懲役刑は「人格を内部から破壊する」
──約7年の刑務所生活はどうでした?
良い経験にはなりました。ただ、捕まった時点で「犯罪のセンスがない」とも思いましたね(笑)。
刑務所に入って痛感したのは、「規則通りに運営されていない」ということ。閉鎖的な環境で、刑務官の裁量がチェックされていません。受刑者は人間ではなく、"モノ"のように扱われています。厳しくするのは構いませんが、法的根拠に基づいておらず、ただただ「命を軽視している」と感じました。

──刑務所はどう変わるべきでしょうか?
「死刑は究極の刑罰だ」という人もいますが、それは懲役の現実を知らない人の言葉です。懲役刑は、人格を内部からじわじわと壊していく刑罰なんです。
現在の刑務所は、社会復帰を前提とした仕組みになっていません。例えば、トラブルを防ぐため、受刑者同士の会話を極端に制限していますが、社会では人間関係の衝突は避けられない。
本来、刑務所で教えるべきは、トラブルをどう解決し、良好な人間関係をどのようにして築くかというスキルのはずです。日本の刑務所は過剰に「予防」に走ることで、どんどんコミュニケーション能力が衰えていき、それがむしろ再犯を助長していると感じます。
今年6月から社会復帰を重視した「拘禁刑」が導入されましたが、制度を作る側はもっと"中の声"に耳を傾けてほしいです。
──今後はどんな活動を?
刑務所の中にいた人間だからこそ、わかることがあると思っています。受刑者の改善更生や社会復帰のために、少しでも貢献できるような活動をしていきたいと思っています。

