食事は健康的な生活に欠かせない日常的な行動です。しかし認知症の方は、認知機能や心理面の変化によって、食事にさまざまな困難を抱えていることがあります。結果として、食事に関心を示さなくなったり、拒否したりするケースが少なくありません。
こうした問題は、栄養状態の悪化や脱水につながるだけでなく、介護する側にとっても大きな負担となる場合があります。なぜ食事を拒否するのかを理解し、声かけや工夫の方法を知っておくことは、本人と介護者の双方にとって、よりよい食事環境へとつながります。
この記事では、認知症の方が食事を拒否する理由、実際にとれる対処法、そして対応時の注意点について解説します。
認知症の方の食事拒否とは
認知症の方が食事を拒否する理由を教えてください食事を拒否する背景には、複数の要因が関わっています。まず、認知機能の低下により、箸やスプーンの使い方がわからなかったり、食事の手順に混乱したりして、拒否につながることがあります。また、料理を食べ物として認識できない場合もあります。さらに、すでに食べたと思い込み、食事をとろうとしないケースも少なくありません。
身体的な変化も影響します。嚥下(飲み込み)の障害や口腔内のトラブル、義歯の不具合などによって食べにくさを感じると、食事に対する意欲が低下します。さらに、味覚や嗅覚の変化によっていつもの料理に違和感を覚えることもあります。
心理的な要因も無視できません。不安や抑うつなどの気分の変化により、食事への関心が薄れ、拒否行動として現れることがあります。さらに、服用中の薬剤によって食欲が低下している場合もあります。
このように、食事拒否は単一の理由によるものではなく、認知機能の障害、身体的な問題、感覚の変化、心理的要因などが重なって生じます。 好物でも食事拒否することがありますか?好物を用意しても、認知症の方が食べないことはあります。
まず、味覚の変化や嗅覚の低下によって、以前と同じ味付けでも、違和感を覚える場合があります。さらに、認知機能の障害によって、目の前の料理を自分の食べ物として認識できないケースもあります。
また、気分や心理状態も影響します。抑うつの症状があると、好物であっても食べたいという気持ちが起こらないことがあります。体調不良や便秘、痛みなどが重なると、食べる意欲がわかないことも少なくありません。
さらに、周囲の環境も影響します。騒がしい場所や落ち着かない雰囲気のなかでは、好物を出されても集中できず、結果として食事拒否につながります。
参照:
『認知症診療ガイドライン2017』(日本神経学会)
『All Is Not Lost: Positive Behaviors in Alzheimer’s Disease and Behavioral-Variant Frontotemporal Dementia with Disease Severity』(J Alzheimers Dis)
『Eating well: supporting older people with dementia Practical guide』(Caroline Walker Trust)
【認知症の食事拒否】対処法
食事を食べてくれないときはどういった声かけが効果的ですか?認知症の方に対しては、威圧的な言葉をかけるのではなく、落ち着いた優しい声かけが役立ちます。「一緒に食べましょう」といった誘い方で一緒に食事をとることで、心理的に落ち着きやすくなり、食事への意欲も高まります。無理に急かすのではなく、時間をあらためて再度声をかけるのも一つの方法です。
認知症の方が食べやすいメニューや調理方法を教えてください食事は細かく刻んで食べやすい大きさにする、やわらかく煮て咀嚼や嚥下をしやすくするなど、身体機能に応じて形態を調整します。とろみを加えると、誤嚥を防ぐことに役立ちます。器はシンプルなものを用い、料理とのコントラストをつけると食べ物が認識しやすくなります。温度は熱すぎず冷たすぎずの適温を心がけましょう。また、彩りを意識することで、料理に関心を向けやすくなることもあります。
食事量が減っているときはどうやってカロリーを摂取すればよいですか?1日3回の食事にこだわらず、少量を4〜6回に分けてとる少量頻回食が推奨されることがあります。食べやすく口当たりのよい食品を選び、ヨーグルトやプリンなどで効率よくカロリーを補う方法もあります。さらに、状況に応じて栄養補助食品を併用することで、無理なくエネルギーを確保できます。
介護施設や医療機関ではどのように対応していますか?介護施設では、食形態の調整や旬の食材、盛り付けなど料理の工夫に加えて、落ち着いて食べられるよう環境への配慮がされています。また、ほかの利用者と一緒に食事をとることで雰囲気をつくり、意欲を引き出す工夫が取り入れられることもあります。無理に食べさせることはせず、本人のペースを尊重しながら、身体機能に応じて食事の介助を行います。一方、医療機関では、多職種による身体機能の評価を行います。例えば、言語聴覚士が嚥下機能や食事形態の適否を確認し、管理栄養士が実際に摂取できている量と必要な栄養との不足や偏りを調べます。その結果に応じて、食形態の変更や介助の方法を見直すことがあります。また、医師は便秘や感染など、食事量が低下につながる病態がないかを確認し、必要に応じて点滴や経管栄養といった方法を検討することがあります。
参照:
『Nutrition and dementia: a review of available research』(Alzheimer’s Disease International)
『高齢者と食とコミュニケーション』(公益財団法人長寿科学振興財団健康長寿ネット)

