【認知症の食事拒否】注意点
食事を拒否しているときにやってはいけないことを教えてください食事を拒否しているときに叱ったり責めたりすることは、不安や抵抗感が強まり、さらに拒否が続く原因です。急かすような対応も避けるべきです。焦らせることで拒否感が強まるだけでなく、誤嚥や窒息のリスクが高まります。さらに、無理やり食べ物をお口に入れることは危険な行為であり、窒息や誤嚥につながりかねません。また、拒否する理由をわがままや、介護者への嫌がらせと決めつけてしまうのも適切ではありません。背後に身体的な不調や心理的要因が隠れていることが少なくないため、まずは原因を丁寧に見極める姿勢が大切です。 認知症の方の食事拒否に対して医師に相談することはできますか?一度の拒否や1食分程度であれば、次の食事やおやつで補うことで大きな問題にならない場合もあります。しかし、拒否が続き、明らかな体重減少、脱水や体調不良の兆候がみられるときには、早めに医師へ相談しましょう。
介護者が日頃から体重や食事量を簡単に記録しておくと、診察時に状況を正確に伝えることができます。薬の影響で食欲が落ちることもあるため、服薬状況をあわせて報告するとよいでしょう。 認知症が原因で食事を拒否する場合は、薬などで治療できますか?食事拒否そのものを直接改善する薬は基本的にありません。したがって、まずは環境や食事内容の工夫といった非薬物的なアプローチが優先されます。
ただし、原因によっては薬が用いられることもあります。例えば、不安や抑うつといった精神症状、便秘や感染症などの原因がある場合は、それに応じた薬物治療によって食欲の改善が期待できることもあります。
薬は補助的な位置づけであり、生活環境やケアの工夫が基本です。
参照:『Eating well: supporting older people with dementia Practical guide』(Caroline Walker Trust)
編集部まとめ
認知症の方が食事を拒否する背景には、認知機能の変化、身体的な不調、味覚や嗅覚の変化、心理的要因など、さまざまな要因が重なっています。好物であっても、こうした影響によって食べられないこともあります。
対応の際は、叱責や強制は避け、優しく声をかけて本人のペースを尊重しましょう。食べやすい形態に調理したり、少量頻回にしたりするなどの工夫で、無理なく栄養をとれるように支えることが重要です。介護施設や医療機関でも、環境調整や、言語聴覚士や管理栄養士などによる評価を通じて、本人に合った食事支援が行われています。
食事拒否が続く場合や体重減少、脱水の兆候がみられるときには、早めに医師へ相談することがすすめられます。
食事は健康の維持だけでなく生活の楽しみにもつながるものです。拒否の背景に目を向け、本人の尊厳を尊重しながら、少しずつ工夫を積み重ねていくことが大切です。
参考文献
『認知症診療ガイドライン2017』(日本神経学会) 『All Is Not Lost: Positive Behaviors in Alzheimer’s Disease and Behavioral-Variant Frontotemporal Dementia with Disease Severity』(J Alzheimers Dis) 『Eating well: supporting older people with dementia Practical guide』(Caroline Walker Trust) 『Nutrition and dementia: a review of available research』(Alzheimer’s Disease International) 『高齢者と食とコミュニケーション』(公益財団法人長寿科学振興財団健康長寿ネット) この記事を書いた人
林 良典
出身大学 名古屋市立大学 / 経歴東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職 / 資格医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、禁煙サポーター / 診療科目総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

