限界を迎えた妻の涙
40代編集者のAさん(仮名)の日常は、まさにこの「見えないメンタルケア」の重さを物語っています。
「夫が仕事でイライラして帰ると、黙ってビールを出し、取引先の悪口や上司への不満を1時間聞く。『最近キツいんだ』って言うけど、私が『私も疲れてる。今日会社でね……』って呟くと、間髪入れずに『疲れてるんだからその話は聞きたくない』とピシャリ。その度に、心がちくっとするんです」とAさん。
さらに、思春期の息子の存在も重くのしかかります。「朝遅刻しそうになる息子に何度も何度も声をかけます。起こすのは親の責任だと思って。息子が困らないように……。それでも『うるさいな!クソババア』と返されて、傷つきながらも、夕飯に息子と何か会話ができたら、学校での困り事や友人関係に悩みはないか少しでも話しが聞けたら……と息子の好きなハンバーグを作ります。でも、食後に『おいしかった?今日遅刻しなかった?』と聞いても『部屋でゲームするから絶対に声かけないでよ』と一言。そのままスマホを持ってすぐ部屋に戻ってしまう。私はただの家政婦なのか……。夫の『お前がいなきゃ困るよ』という言葉も、虚しく響くだけ…」。
Aさんは涙目で言います。「『母親だから、妻だから、つい何でもやってあげてしまう。でも、こんなに頑張ってるのに、誰も気づいてくれない。自分が家族を甘やかしすぎたのかなって、夜中に何度も自問自答するんです』」
そして、ある日、Aさんの我慢は限界に達しました。「また、心ない声で夫に『お前がいなきゃ困るよ』と言われたとき、私は『もう出て行きたい、あなたとは離婚したい』と泣き叫びました。夫は初めて、私の様子がおかしいことに気づいたようでした」。
「気遣い」と「ありがとう」が持つ力
「妻の優しさはタダじゃない」という言葉に集約されるように、数万いいね超えのX投稿は、妻や母の「見えないメンタルケア」を照らし、多くの人の心に響くきっかけとなったのではないでしょうか。
「男性は特に気づかない」という声が圧倒的に多い中、Aさんのように、自責の念を手放し、心の叫びをきちんと伝えることで、状況を変える一歩を踏み出すことができるのかもしれません。
Aさんは、夫に本音をぶつけて以来、少しずつ家庭内の空気が変わったと言います。
「ある晩、夫の愚痴を『うんうん』で軽く流し、いつもより静かにしてたら、『なんか元気ない? 大丈夫?』って初めて心配してくれたんです。息子も、夕飯で『ハンバーグ、いつも作ってくれてありがと』ってポツリと言ってくれて、思わず泣きそうになった」。
夫婦で、親子で、「お互いに心の負担を軽くできているかな?」と、さりげなく気遣い合う姿勢が、絆を深めるはず。あなたも、今日から「ありがとう」の言葉と、ちょっとした気遣いを家族に伝えてみませんか?
(足立むさし)

