ビリヤニは大量調理プラス専門技術が必要
小竹:そもそもビリヤニには定義はあるのですか?
大澤:強いて言うと、インドの香り米、特にバスマティライスを使用して、スパイスと食材を一緒に炊いたものです。ビリヤニの必須条件は、第一にインドの香り米、これは絶対に必要です。結局、香りが重要なんです。お寿司にとって日本米の香りが重要であるように、バスマティライスの香りがビリヤニを仕上げている。
小竹:そうなのですね。
大澤:ビリヤニの一番有名な町ハイデラバードでは、バスマティライスだけでビリヤニが作られます。ただ、ハイデラバードドはバスマティライスの産地ではない。バスマティライスの産地は、ハイデラバードから数百キロ離れたインド北西部です。日本で例えると、九州でしか採れない米で料理をしているみたいな感じです。
小竹:インドの中ではそのお米がいいのですか?
大澤:バスマティライスが特別ビリヤニにとっておいしいので、現地で採れる米を使わずにバスマティライスにしていたんです。ハイデラバードはもともとニザーム藩国という国だったのですが、世界最大のダイヤモンド鉱山があったので圧倒的な経済力を持っていた。だから世界中からおいしい食材を取り寄せることができたし、数百キロ運ばせたバスマティライスを使って宮廷料理も作っていた。しかも、それが大衆まで普及したのが、ハイデラバードのビリヤニ文化のすごいところです。
小竹:ビリヤニが日本でなかなか広がらないのはなぜなのでしょうか?
大澤:結局、大量調理というのと、すごく手間がかかること。あと、インド料理のシェフであればビリヤニは一応作れるは作れるのですが、専門技術が必要なんです。さらに難しいのは、ビリヤニは大量調理したほうがおいしい。インドだと通常50人前から150人前くらいの量が一般的です。
小竹:日本のカレー屋さんが片手間にビリヤニを作ると全然違うということですね。
大澤:それだと、海外の日本料理店が片手間でラーメンを作っているような状態ですね。ラーメン屋さんのラーメンは全然違う。なぜ違うかというと、大量調理プラス専門技術が必要だからなんです。それはビリヤニも同じですね。
ビリヤニの一番重要なポイントは“香り”
小竹:2021年に「ビリヤニ大澤」をオープンされましたが、客席を10席にこだわっている理由を教えてください。
大澤:インドのビリヤニ専門店で人気のお店は、ランチで3000人前を作っています。3000人前を3000人前用の鍋で作るのではなくて、50人前用の鍋で何回も何回も流れ作業で作っている。逆に言うと、一鍋にこだわって作るみたいなことはできないんです。
小竹:うんうん。
大澤:もちろんインドは本場ですし、専門の職人たちが作っているのですごくおいしい。でも、それが究極の完成度かというと、毎回味がブレている。僕は大鍋の調理で、全力で手間暇をかけたビリヤニを提供したかった。日本ではビリヤニのニーズが少ないので、小鍋調理なんです。小鍋調理でしかも作り置きになると、もうそこにビリヤニの良さはほとんど残っていないんです。
小竹:大澤さんが求めるビリヤニのおいしさということですね。

カウンター10席のみのビリヤニ大澤店内
大澤:ビリヤニにとって一番重要なおいしさは香りで、香りがビリヤニを特別な存在に高めています。簡単に言うと、カレーでライスを炊いたのがビリヤニなのですが、どちらもちゃんと調理をしてからさらに重ねて一緒に炊いていく。その工程をすることで爆発的に香りが良くなるんです。
小竹:お店では香りが最大になったときにみんなで食べるということを大事にしているのですよね?
大澤:香りが最大化するのは炊きたてです。しかも、小鍋炊きよりも大鍋炊きのほうが香りの量が多い。大鍋で炊いたほうが香りが飛ばないので、同じ分量でやっても揮発する量が抑えられるんです。だから、作り置きだと香りがどんどん飛んでいってしまう。
小竹:うんうん。
大澤:炊き上がって蓋を開けてほぐしたら蒸気が出る。あれが香りがマックスの状態で、うちの店ではそれを提供しています。多くの店は仕込んでおいて、冷蔵庫に入れて温めて出すのですが、全然違うんです。冷蔵庫に入れて香りがもう乾いている状態になるので、温めてもカレーチャーハンに近い状態にはなっちゃっているんです。
小竹:なるほど。
大澤:でも、インドのビリヤニがこの世で究極で最高のビリヤニかというと、もっともっとおいしくできる。だから、私が目指すべきは、よりおいしいビリヤニを作ること。ビリヤニの最大の魅力は、ビリヤニを作ると、次回はこうしたらもっとおいしくなると毎回思うことなんです。
小竹:大澤さんでもまだそう感じるというのは驚きです。
大澤:だから、お店を始めたんです。作る回数を増やせるじゃないですか。いろいろと試せば試すほどビリヤニはおいしくなる。今作ったビリヤニが人生で作った最強の究極のビリヤニかというと、もっとおいしく作れるはずだし、ビリヤニのポテンシャルはまだまだこんなものではない。
小竹:日本は食材が豊かおいしいですしね。
大澤:ミシュランの星も世界で一番多い街ですから、ありとあらゆる食材が手に入る。しかも、クオリティもすごく高いので、おいしいビリヤニを作りまくれる状況が東京です。さっきもスーパーに買い出し行きましたが、あれもビリヤニにしたい、これもビリヤニにしたい、スーパーにある食材全部ビリヤニにしたいです。
小竹:サンマがいいと先ほど話されていましたね。
大澤:昨日も徹夜でビリヤニのレシピを考えていたのですが、試したいパターンが無限にある。僕の人生では作りきれなさそうです。ビリヤニの可能性爆発です!
(TEXT:山田周平)
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【ゲスト】
第46回・第47回(10月3日・10日配信) 大澤孝将さん
「ビリヤニ大澤」オーナーシェフ/1989年長野県生まれ。大学生のとき、インドで出会ったビリヤニに衝撃を受ける。そこからビリヤニの研究を始め、間借りビリヤニ屋のオープン、ビリヤニシェアハウスの立ち上げ、インド料理店での勤務など様々な角度からビリヤニを追求する。コロナ禍をきっかけに自分を見つけ直し、ビリヤニ専門店『ビリヤニ大澤』を2021年8月にオープンした。ビリヤニ調理を科学的に分析し、究極のビリヤニを目指している。著書に『「ビリヤニ大澤」のフライパンビリヤニ』(主婦と生活社)
ビリヤニ大澤公式HP
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クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。
趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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