心と体のバランスを保つ大切な役割を担っている「女性ホルモン」。年齢やライフステージによる変化が、気分の落ち込みやイライラなどメンタル面にも影響を与えることがあります。今回は、その仕組みと向き合い方について、「渋谷365メンタルクリニック」の渡辺先生に教えていただきました。

監修医師:
渡辺 佐知子(渋谷365メンタルクリニック)
金沢医科大学大学院医学研究科修了。同大学の神経科精神科、女性総合医療センター外来を経て、厚生労働省医系技官として医療行政に携わる。精神保健指定医。日本精神神経学会認定専門医・指導医。産業医。医学博士。
女性ホルモンの変化がメンタルに与える影響
編集部
女性ホルモンの変化で心の不調が起きると聞きますが、具体的にはどのような影響があるのでしょうか?
渡辺先生
「気分が落ち込む」「イライラする」「不安が強くなる」「眠れなくなる」など、不調は多岐にわたります。女性はホルモンの変化が大きく、特に生理前や出産後、更年期などのホルモンが急に変動する時期に、メンタルの不調が出やすくなります。
編集部
PMS(月経前症候群)もその一種ですか?
渡辺先生
PMSもホルモン変動による心身の不調の1つです。生理前になると情緒不安定や過敏、不眠、集中力の低下などが表れます。生活に支障をきたす場合は、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されることもあります。
編集部
「PMSに悩んでいる女性が多い」という話はよく耳にします。
渡辺先生
「生理前になるとイライラしてつい食べ過ぎたり、意味もなく後輩にきつく当たったりする、でも生理が始まるとスッと楽になる」、そんな女性は多くいらっしゃいます。しかし、そうなると毎月のうち穏やかに過ごせるのは、ほんの半分くらいです。プライベートでは楽しみにしていた予定もキャンセルしてしまったり、仕事でも思うように力を発揮できなかったりして、毎月しんどい思いをしているのです。
編集部
PMSに悩む女性は、どれくらいいるのでしょうか?
渡辺先生
調査によると、女性の7割がPMSを経験していることがわかっています。症状の重さは人それぞれですが、診察をしていると様々な悩みを抱えている患者さんに多く出会います。例えば、見た目はすごく可愛らしい女性でも、「お風呂に入れない」「化粧を落とさず玄関先で寝てしまった」「食器を洗う気力が出ない」というような悩みで受診するケースもありました。外からは元気で可愛らしく見えても、生活の中でそういった困りごとが出るのが、PMSのつらい部分と言えるでしょう。
編集部
産後うつや更年期うつもホルモンの影響ですか?
渡辺先生
はい。妊娠・出産の後や、閉経の前後は女性ホルモンがガクッと減り、その変化に脳がついていけなくて、気分が落ち込んだり、不安が強くなったりします。特に産後の数週間~数カ月の時期や、更年期にあたる40代後半〜50代前半の女性にはよくみられます。
編集部
一般的な心の病気とは、どう違うのですか?
渡辺先生
女性ホルモンの変化による不調とうつ病や不安障害は、一見すると似ています。しかし、大きな違いは、女性ホルモンの変化による不調はホルモンの周期と関係していることです。症状に“波”があって、生理のタイミングなどと一緒に出やすいのです。ただし、症状が重くなると本当のうつ病を併発してしまうこともあるので注意が必要です。
女性ホルモンの変化がメンタルに影響を及ぼす理由
編集部
なぜ、ホルモンの変化でメンタルまで不調になるのでしょうか?
渡辺先生
女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンは、脳の中のセロトニンやドーパミンにも影響しています。そのため、ホルモンのバランスが乱れると、気分が安定しなかったり、眠れなかったり、集中できなくなったりするのです。
編集部
注意が必要な年代はありますか?
渡辺先生
PMSは10〜30代の女性に多くみられますが、最近は出産年齢が上がってきているので、妊娠・出産に関する不調はアラサーからアラフォー世代にかけて目立ちます。そして更年期に差しかかるアラフォー・アラフィフ世代では、更年期障害の悩みが出てきます。このように、年代ごとに抱える困りごとは変わっていきますが、女性は一生を通じてホルモンの影響を受けながら過ごしているのです。
編集部
もともとの性格にもよって症状は異なりますか?
渡辺先生
几帳面だったり、責任感が強かったり、真面目なタイプの人ほど、ホルモンの変化の影響を強く受けやすい傾向はあります。そこに仕事や育児のストレスが重なると、症状が悪化しやすくなることも考えられるでしょう。
編集部
不調がみられる場合、ホルモンが原因かどうか、どう判断すればいいですか?
渡辺先生
「特定の時期に決まって不調が起きる」「周期性がある」などのパターンがヒントになります。症状が2週間以上続いたり、生活に支障があったりする場合には、ぜひ医療機関で相談をしてほしいと思います。

