これまでは胃に病変が見つからないのに胃もたれ・腹部膨満感・胃痛などがある場合、それらの症状については胃下垂や慢性胃炎、あるいは神経性胃炎との診断でした。
なかでも胃が垂れ下がる胃下垂の状態が続くと胃壁が引き延ばされて胃の働きが悪くなり、これらの症状が慢性的に悪化することが多く、その状態をとくに胃アトニーとして治療されていました。
しかし、2013年にこれらの胃における症状が続く状態を総称する機能性ディスペプシア(FD)という診断名が付けられることとなり、翌年には診療ガイドラインが発表されて最近では胃アトニーという診断名は使われなくなっています。
ただ、一般的に「機能性ディスペプシア」との診断名はまだ馴染みがうすいため、ここではこれまで使われてきた「胃アトニー」として治療法などを解説します。
※この記事はメディカルドックにて『「大人の軽度知的障害の特徴」はご存知ですか?日常生活における影響も解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。
胃アトニーの治療法

生活習慣の改善で治りますか?
胃アトニーを含む機能性ディスペプシアの治療と予防には、生活習慣の改善が非常に重要です。そして、それとともに食事内容の改善や、できるだけストレスを溜めずに過ごせるような生活環境作りも大切です。そのような環境作りには、同居している家族の協力が必要となります。医師のアドバイスをしっかり守ることに加えて、家族にも協力をしてもらいましょう。
胃アトニーの治療方法を教えてください。
治療方法には生活習慣の改善につながる食事療法と運動療法のほかに、薬剤による対症療法があります。胃アトニーは発症原因が一つであることが少なく、様々な原因が複雑に絡み合っているケースが多い疾患です。医師の診察によって全ての原因を炙り出したうえで、次に挙げる各種の内服薬が組み合わされて処方されます。
消化管運動調節薬:ガスモチン・ガナトン・アコファイドなど
胃酸分泌抑制薬:プロトンポンプ阻害薬・H2受容体拮抗薬
鎮痙剤:ブスコパン・コリオパンなど
漢方薬:六君子湯・真武湯・補中益気湯など
抗不安薬:メリスロン・セルシンなど
抗うつ剤:ドグマチー・パキシル・ルボックスなど
最後に、読者へメッセージをお願いします
胃アトニーなどの機能性ディスペプシアは、腹部の症状が長く続いているのに検査で異常が見つからないことが多い病気です。医師はどのような症状がいつごろから起きているかなどの状況のほか、ふだんの生活習慣と生活環境・職場環境などについて細かく問診を行い診断します。そのため機能性ディスペプシアを詳しく理解している専門の医師に相談することと、症状をできるだけ具体的に伝えることが重要です。
そのうえで医師やスタッフを信頼して生活指導に従うことが、治療効果を上げることにつながります。
編集部まとめ

これまでは発症原因がよくわからず慢性胃炎などと診断されることもあった胃アトニーですが、今では機能性ディスペプシアという診断名が付けられるようになりました。
2014年には日本消化器学会から診療ガイドラインが発表され、診断や治療方法が確立されつつあります。
なかなか治らない胃のもたれや痛みに腹部の膨満感などの悩みは、医師の診断を受けることで解決が可能です。
胃の具合が気になっているのであれば、一日も早く専門の医師の診察を受けることをおすすめします。
参考文献
機能性ディスペプシア(FD)(日本消化器病学会ガイドライン)

