書類の弁護士に電話したことを知った瞬間、宏樹は目を見開き「何で勝手なことするんだ」と聞いてきましたが、私はきっぱりと答えました。
「届けの件も曖昧にするし、不倫についてもはぐらかすからでしょ。あなたは文句言える状況?自分が一番分かってると思うけど?」
宏樹は不安そうに「何を聞いた?」と問います。
「あなたが東葵さんって人と不倫をして妊娠させたってこと。大阪の人なんだって?大阪出張ってそういうことだったんだね」
「いや…」宏樹はバツが悪そうに口ごもります。
美波「宏樹さ『仕事でお世話になってる上司と商談』って言ってたよね?あれは大うそで、東葵さんと会ってたんだね」
テーブルの一点を見つめて黙りこくった宏樹。何も言わないこの時間が無駄だと感じた私は、改めて問い詰めました。
「不倫したのか、してないのか、どっち?」
「証拠がないだろ」
「あるよ、DNA鑑定結果まであるって言われた!もう言い逃れできない状況のに何で嘘つくの?」
激怒し興奮する私が手に負えないと思ったのか、宏樹は目をつむり、鼻で大きく息を吸いました。そして全てを諦めたかのようにゆっくりと目を開けると、テーブルに手をつき私に頭を下げました。
「本当に申し訳ない。俺が悪かった…」
「…認めるってことね?」
宏樹は顔を上げ、黙って頷きました。
美波「私から言いたいことは1つだけ。……離婚しましょう」
ようやく非と認めた夫
当初は不倫をはぐらかしていた夫。妻・美波が弁護士事務所へ電話をしたことを知った途端、怒りますが、そんな権利はありませんね。最後まで悪あがきをする夫に、あきれてしまいます。
ようやく不倫の事実を認めた夫に、美波は離婚をつきつけます。
図々しいにもほどがある…
「聞こえてる?」
「い、いや待ってくれ。離婚って…子どもたちに何て」
「子どもに知られたらって後ろめたくなるようなこと、はじめからするんじゃないよ」
ウソをつかれて、相手の人を妊娠までさせる人と子どもとを一緒に暮らさせるなんてできません。まさか離婚をせず、その400万円を私と一緒に返そうだなんて、狼男は図太過ぎますよね。
「10年間も一緒に過ごしてきてこんないきなり…。400万なんて俺1人では…」
「はい?」
「どうか考え直してくれ。俺も二度とこんなことはしないと誓うから」
まだ許してくれる可能性があると思っているのが不思議です。私は容赦なく言葉を突き返します。
「…やっすい言葉。本来、一度だって許されることじゃないよ。何?私も支払いに協力してほしいってこと?」
「バカな事は承知の上で頼む…」
「あきれた。無理に決まってる。あなたは罰を受け止めるべき。相手もね。400万円は自分の責任で支払って。私も慰謝料請求するから」
宏樹の目から光が失われていくのがわかりましたが、そうなりたいのは裏切られた私の方。これから子ども3人を1人で育てていかなくてはいけないんですから。
ここまで図々しいとは思ってもいませんでした。生活を安定させるために私も努力していたのに。こいつは裏でとんでもないことをしていたわけです。その後、私は弁護士とも相談をし、離婚と慰謝料請求に向けて動き出しました。
不倫をしても許されると思い、挙句の果てに、慰謝料の支払いの協力を妻に求めるなんて…。都合が良すぎて、うんざりしますね。
美波は、新しい生活を踏み出すため、離婚と慰謝料請求の準備に取りかかります。

