
近年、毎年のように全国各地で台風や豪雨による水害が発生しています。お住まいの地域に避難情報が出されたり、「このまま降り続いたら浸水するかも」と、ヒヤッとしたりした経験のある方は多いのではないでしょうか。
どんな災害も備えが大切なのは同じですが、地震と違って水害は予測することが可能です。天気予報などの情報を調べ、適切な準備と行動をすれば、いざという時も安全に逃げることができるのです。
そこで今回は、水害時にあわてずに行動するための自分用にカスタマイズした避難計画、「マイ・タイムライン」を子どもと一緒に作った様子を紹介します。
小中学生向けの「マイ・タイムライン」作成ツール、「逃げキッド」を活用
「マイ・タイムライン」とは、台風の接近などにより災害発生のおそれがある場合に、家族構成や生活環境に合わせ、いつ、何をするのかをあらかじめ時系列で整理した住民一人ひとりの“オーダーメイド”の避難行動計画です。自治体による住民参加型の講習会や、小学校の防災教育などで活用されています。
わが家には、中学生、小学生、保育園児の4人の子どもたちがいるので、小中学生向けに提供されている「マイ・タイムライン」検討ツール「逃げキッド」を使って作成しました。
ハザードマップと「逃げキッド」。親子で一緒に取り組みやすいよう、印刷して書き込むことにしました
今回は、子どもたちと一緒に取り組みやすいよう印刷しましたが、国土交通省のサイトの「Webでマイ・タイムライン」から、Web上で作成することもできます。
Web上でも、3つのステップで手軽に「マイ・タイムライン」を作成できる
実際に作ってみました
それでは、作成の手順を紹介します。
①「避難行動判定フロー」を参考に、ハザードマップで、浸水想定エリア、避難場所などを確認
いざというときに備えて、自分がとるべき行動をどういった手順で考えればいいかがわかるようになっている 出典:内閣府防災情報「避難行動判定フロー」
まずは各自治体が作成しているハザードマップで、自宅周辺がどのくらいの災害リスクがあるのかを調べます。特にチェックするのは、
・浸水深
・浸水継続時間
・家屋倒壊等氾濫想定区域かどうか
これらの情報は、紙のハザードマップや自治体のホームページのほか、国土交通省のハザードマップポータルサイトで提供されている「重ねるハザードマップ」で一気に調べることもできます。「重ねるハザードマップ」は、国や都道府県の関係各機関などが作成した災害リスク情報等をまとめて閲覧できるようにしたウェブサイトです。そのため、関係機関が情報提供し、公開されるまでにタイムラグが生じてしまうため、最新かつ詳細な情報については、必ず各市町村が作成するハザードマップを確認するとよいでしょう。
「重ねるハザードマップ」では、住所・現在地・地図から、災害リスクを調べることができる 出典:国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
長野県佐久市にあるわが家の場合は、徒歩数分のところに一級河川の千曲川があるため、浸水のリスクが高いことはわかっていました。
ハザードマップで調べてみると、思いがけない発見が!
実際に調べてみると、浸水継続時間だけで見れば12時間未満と、飲料水や食糧など十分な備蓄があれば自宅にとどまって安全を確保できる想定時間ではありました。しかし、浸水の深さが3〜5mで、これは2階軒下までの浸水が想定されるということ。しかも河川が氾濫した際に、木造家屋が倒壊・流出するおそれがある家屋倒壊等氾濫想定区域に該当していたので、避難一択という結論になりました。
左上から時計回りに、浸水想定区域、浸水継続時間、家屋倒壊等氾濫想定区域、3つの情報を地図上に重ねたもの 出典:「重ねるハザードマップ」
地震と水害では、逃げ込む避難場所が違う!
②避難場所を検討
地震であれば、近くの公園や学校など開けた場所が安全な避難先として思い浮かびます。実際に、多くの場合はそういった施設が避難場所として指定されています。
ところが、その避難場所が河川の近くなど浸水の危険がある場所だと話は変わってくるのです。わが家の場合も、地震のときなら徒歩10分以内でたどり着ける施設が避難場所だったのに、水害となると40分以上歩かないといけない施設が避難場所になっていました。これでは、幼児を連れて悪天候の中を移動することは難しいでしょう。
市が配布する防災マップにも、災害の種類によって避難先として適切かどうかが◯×で記載されていました
③避難開始のタイミングを決める
内閣府から出されている「避難情報のポイント」を参考に、どのレベルの避難情報が発令されたら避難を開始すればいいのかを検討します。
2021年に、避難のタイミングをわかりやすくするため、「避難勧告」が廃止され「避難指示」に一本化されました 出典:内閣府「避難情報のポイント」
子ども4人といつ、どうやって避難するか?
わが家の場合、大人1人で、幼児2人を含む子ども4人と避難しなければなりません。避難先まで距離があることも考慮すると、早めに車で避難する必要があるという結論に至りました。
基本的に、緊急時には徒歩での避難が推奨されています。特に水害の場合は、車の水没等の危険が伴います。そのため、各家庭の状況に応じて車での移動を選択肢に入れるときは、より早めの行動と、道路情報等の収集が必須です。車での避難が可能な避難場所を公開している自治体もあるので、その情報を参考に避難先を検討するといいでしょう。
この場合、移動を開始するのは全員避難とされる警戒レベル4ではなく、警戒レベル3が出されるタイミングです。レベル3では、高齢者や障害のある人、幼児など避難に支援を必要とする人が避難を開始する必要があります。
わが家は隣町に親戚宅があるので、道路状況などに応じてハザードマップに記載の避難場所か親戚宅、いずれかに避難することに決めました。
「マイ・タイムライン」に避難開始のタイミングと、避難先について書き込む。親戚宅に避難するかもしれないことを想定して、事前に親戚へ連絡をすることも追記
これで、住んでいる地域と家族構成などから検討するべき避難先と避難のタイミングが決まりました。
洪水時の避難行動の順番を考える
④7つの基本的な行動の順番を考える
「マイ・タイムライン」作成にあたって、洪水時避難のための基本的な行動として挙げられているのが以下の7つです。
・避難しやすい服装に着替える
・避難するときに持っていくものを準備する
・今後の台風や前線の動きを調べ始める
・川の水位を調べ始める
・住んでいるところと上流の雨量を調べ始める
・安全なところへ移動を始める
・避難完了
最後の行動が「避難完了」、最後から2番目の行動が「安全なところに移動を始める」ですが、それ以外の1〜5番目に何をするかは決められていません。自分や家族にとっての正解を考えるのが重要です。
「逃げキッド」の資料2を使って、順番に並べ替えてみました。
子どもたちと一緒に考えながら出したわが家の順番はこちら
子どもの意見を聞きながら作成
「逃げキッド」の記入例では「避難するときに持っていくものを準備する」→「避難しやすい服装に着替える」でしたが、わが家では逆の順番に。「緊急の場合、何も持たなくても自分の身一つあれば避難はできる!」という娘の意見を採用した結果です。
とはいえ、必要な荷物を持たずに避難することは避けたいので、荷物の準備を前日と半日前の二段階に分けることにしました。直前まで使う可能性のあるもの以外は事前にリュックなどに詰めておき、いよいよ避難の必要性が出てきたら、まずは着替え、それから荷物の最終確認をしたいと思います。
⑤わが家独自のポイントを確認
基本的な行動の順番が決まったら、わが家独自のポイントを確認して書き込んでいきます。
たとえば、子どもたちは保育園、小学校、中学校とそれぞれ通っている先が違うので、園や学校からの連絡とお迎え等のタイミングを確認しなければなりません。
また市が配信する防災情報をLINEで受信できるように設定してあるので、そちらのチェックも忘れないように書き込みます。
台風接近に伴う大雨でアンダーパスが通行止めになったとき、市の公式LINEから配信された防災情報
他にも各家庭の状況に応じて、いつ・どんな行動が必要かを書き込んでいきましょう。たとえば持病のある人は台風接近の3日前に薬を多めにもらいに行くこと、ペットを飼っている人は一緒に避難するための手順を考えておくこと、などです。
①〜⑤で調べたり検討したりしたポイントを漏れなく書き込めば、わが家オリジナルの「マイ・タイムライン」の完成です!
わが家の「マイ・タイムライン」。お年寄りの多い地域なので、ご近所への声かけなども書き加えました
「マイ・タイムライン」は定期的に見直しを
作ってみて感じたのは、想像以上に考えなければいけないこと・やらなければいけないことがたくさんあるということです。特に最も重要な避難先について、地震と洪水では危険区域の想定が違うため、避難場所が違うことは盲点でした。
子どもたちも、ハザードマップを実際に見ながら考えたことで、自分たちが住んでいるエリアや、保育園や学校のあるエリアが水害時にどれぐらい危険なのかを実感していました。
今回は平日を想定して「マイ・タイムライン」を作成しましたが、休日の場合だとまた家族の行動も変わってくるので、休日バージョンも考える必要があると感じています。
また国土交通省も推奨しているように、忘れてはいけないのが「マイ・タイムライン」の定期的な見直しです。特に子どもたちの生活スタイルは、成長とともにどんどん変化していきます。わが家も来年度には下の子が保育園から小学校に入学するので、そのタイミングでまた「マイ・タイムライン」を見直さなければいけないなと思いました。
わが家の場合は、親子で一緒に考えることで、より具体的なシミュレーションができました。これからも、まだまだ台風や秋雨前線による水害は油断できません。ぜひこの機会に、お子さんと一緒に「マイ・タイムライン」を作ってみてはいかがでしょうか。
<執筆者プロフィール>
那須 あさみ
フリーランスライター。幼児、小学生、中学生の4児の母。さまざまな年齢の子どもと一緒に家庭で備えられる防災を模索中。
