海底で見つかった「戦争の記憶」、沈めたままでいいのか 長生炭鉱遺骨調査の現場で見えたもの

海底で見つかった「戦争の記憶」、沈めたままでいいのか 長生炭鉱遺骨調査の現場で見えたもの

●DNA鑑定はいまだおこなわれず

「刻む会の方々の努力が報われ、ご遺族も喜んでくれるだろう。潜っているのは私だけではなく、現地のダイバーやたくさんの人とともに取り組んできたことなので、結果が出せて良かった」

床波海岸近くのダイビングショップで知らせを受けた伊左治さんは、まずそう思ったそうだ。

「坑口から約500メートル地点に4体分の遺骨がありましたが、事故現場は約1100メートル地点です。そこにいた多くの方が逃げる間もなく亡くなったと考えられてきました。今回の場所で遺骨が見つかったということは、そこまで逃げてこられた方々がいたということ。つまり、同じ場所周辺でまだ他の方々の遺骨も見つかるかもしれません」(伊左治さん)

ただし、誰の骨なのかはまだわからない。韓国政府と刻む会が収集したDNA試料は合わせて83人。犠牲者の約半数に相当する。それでも10月21日時点でDNA鑑定は一度もおこなわれていなかった。遺骨は山口県警察科学捜査研究所に留め置かれたままである。

●「へその緒などがなければ本人特定しがたい」と警察庁

9月9日、刻む会は厚生労働省、外務省、警察庁と政府交渉をおこなった。前回の交渉で外務省が「DNA鑑定や安定同位体検査にかかわる各省庁間の調整は、内閣官房によっておこなわれる」としたため、当初は内閣官房に参加を打診した。

しかし、内閣官房から「山口県警において遺骨の鑑定がおこなわれている現状を、予断をもって回答することが難しい」との返答があり、鑑定と身元確認にあたる警察の意見を聞くべく、警察庁にも対応を依頼したかたちだ。

鑑定のプロセスはどうなっているか。また、沖縄戦の犠牲者の遺骨調査で採用されている安定同位体分析(骨に蓄積される炭素や窒素の同位体比により、生前の食生活などから身元を探し出す調査)が科捜研でできるのか──などの質問があがった。

刑事局捜査第一課・検視指導室長の阿部大輔警視正は、遺骨の身元を特定するためには遺骨を切断してDNA採取をする必要があること、へその緒など本人の生体試料が必要となり、親族から採取したDNAでは「この遺族の犠牲者かもしれない」ということしかわからず、身元特定にはつながりがたいと答えた。

政府交渉のあとで改めて阿部警視正に質問すると、警察庁のDNA鑑定では、へその緒など本人の試料が必要だと繰り返した。

「およそ10年程度前に亡くなった人なら何らかのものが遺されているとは思うが、それ以上前に亡くなり試料もない場合は、遺族のDNAでは完全な身元特定には至らない」「(安定同位体検査については)戦時中のアメリカ兵など、日本に住んでいた人と明らかに食べ物などが違う場合は有効だが、植民地下の韓国人と日本人では差異がほぼないのではないか」

では、現在進められているペリリュー島(パラオ共和国)での遺骨収集なども、生体試料がなければ身元特定はできないのではないのか。そう問うと、ペリリュー島での遺骨収集は厚生労働省の管轄であり、警察庁としては先にあげた要件を満たす必要があるという回答だった。

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