最低賃金額63円の大幅引き上げ 介護業界にも大ダメージ

最低賃金額63円の大幅引き上げ 介護業界にも大ダメージ

ご存じの方も多いと思いますが、8月4日に最低賃金(時給)の引き上げについて議論していた厚生労働省の審議会が、過去最高となる63円の引き上げを行う目安をとりまとめました。

実際の最低賃金は各都道府県が個別に決定しますが、今年10月以降に現在の最低賃金に63円を上乗せした新最低賃金が適用される見通しです。

ちなみに、新しい最低賃金は東京都が最も高く1226円。
次いで神奈川県の1225円、大阪府の1177円となる予定です。
一方、現時点で最も安い秋田県でも1014円となる見込みです。

これを下回っている雇用主は給与を引き上げなくてはいけません。

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この最低賃金に関して誤解をしている雇用主も少なくないようです。

例えば「研修(試用期間)中は最低賃金を下回ってもいい」です。

研修・試用期間中の給与を本来の額より下げることは問題ありませんが、最低賃金額を下回ることはできません。

また「外国人人材には適用されない」と思っている人もいますが、国籍に関係なく最低賃金は満たさなければなりません。

さて、この最低賃金の大幅な引き上げは介護業界に大きなショックを与えています。

ほかのビジネスであれば最低賃金の上昇、つまり人件費のアップをサービス・商品価格に上乗せできますが、介護保険サービスは事業者に価格決定権がありませんので、最低賃金上昇は利益減少に直結します。

ここ数年来の物価・エネルギーコストの上昇に加え、訪問介護事業所の介護報酬改定マイナスで介護事業者を取り巻く経営環境は厳しいものがあります。

ここに最低賃金の大幅アップが重なったことで、「ギブアップ」をする事業者が増えることも考えられます。

こうした中で介護業界からは厚生労働省への署名・嘆願を行おうという動きもあります。

つまり「最低賃金を上げるなら介護報酬も合わせて臨時改訂して欲しい」というものです。

一見すると理に叶った主張と言えます。

しかし冷静に考えると業界にとって両刃の剣です。

仮にこうした「まとまった声」によって臨時に介護報酬の引き上げが行われてしまったら、この先もっと強力な「まとまった声」により介護報酬が臨時に下げられてしまう可能性もあるということになります。

確かに、業界として「介護事業者の厳しい経営環境に理解を」と声を上げることは大切ですが、闇雲に報酬引き上げを主張するのは国・行政や他産業、国民の心証を悪くすることにもなりかねません。

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最低賃金増への対応策として例えば、介護報酬に依存しない部分で価格に転嫁できないものでしょうか。

居住系サービスでは管理費・食費などは値上げの余地があるかもしれません。
こういう話をすると「ご入居者様はお金が無い…」と反発する介護事業者もいます。

しかし、高齢者は在宅で生活をしても食材や水道高熱費の値上がりの影響を受けます。

そして、値上がりしていたり、従来よりも量が減ったり、品質が低下したりしていても、それが生活に必要ならば家計を工夫するなどして、購入・利用します。

高齢者住宅が提供するのは、住まい・食事・介護・医療と生命維持に必要なものばかりです。

多少値上がりしたとしても、入居者や家族は理解をしてくれるはずです。
「高齢者対象のビジネスは値上げができない」という先入観が自身の首を絞めることになってないでしょうか?

もちろん、値上げをする一方で業務の無駄を省き効率化を図ることで入居者・家族の理解を得ることが前提になりますが。

政府は人材獲得面での国際的競争力の強化や、長引く物価高騰への対応策として「2020年代に全国平均で時給1500円」の目標を掲げていますので、今後も最低賃金の引き上げが続くでしょう。

それに対応できるだけの経営体質の構築が求められています。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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