夫婦の関係が心の健康に与える影響とは?
心の健康に影響を与える環境の変化に対するストレスについて、有名な研究があります。1967年に、社会学者のトーマス・ホームズと内科医のリチャード・レイが、5000人の患者を対象に原因となったストレス項目を調査し、点数化した「社会的再適応評価尺度」というものが、現代のメンタルヘルスにおいても指針となっています。ランキング上位3位は、なんだと思いますか? いずれも配偶者にかかわるものでした。「配偶者の死」「離婚」「配偶者との別れ」です。
人間は本来、「生活環境の変化」に対してストレスを感じる習性があり、その変化率が高くなると、うつ病などの発症確率が高くなるとされています。妻や夫の環境が変化することで、夫婦間の役割がズレ、ストレスは大きくなります。子どもが生まれたという変化による役割のズレは、前回「産後クライシス」という形でみてきました。今回は長く続く夫婦間の不和について、もう少し詳細をみていきたいと思います。
例えば、妻が友人とトラブルにあったとき、「近所づきあいは、率直に言えなくて大変だな」と夫に共感されたり、夫がリストラにあったとき「あんなに頑張って働いていたのにね」「お父さんはいつでも私たちの大切なお父さんだからね」と妻に励まされたりしたら、大変な出来事があっても、私たちは試練に対応できる力は随分と変わってきます。
逆に、「いつまでもぐちぐち言ってないで前向きになったらどうだ」と夫に言われたら?「家事育児は放って仕事しかしてこなかったのに、リストラなんて!私たちはどうなるのよ」と妻に言われたら? お互いにわかってもらえなかったことで、ストレスは倍増しそうです。
夫婦の不和はなぜおこるのでしょうか?職場や学校、近所づきあい、友達づきあいなどの社会適応が必要な場面では、「成人」として機能的にふるまっています。世の中にはたくさんの価値観があり、自分の価値観を押し付けるだけでは、解決しないことを知っています。思いやりが人との関係を温かなものにすると知っています。なのに、家庭では、どうでしょう?他人にはできる心遣いが、夫婦だと難しいということがありませんか?恋人だからこそ、パートナーだからこそ、妻と夫だからこそ、よりパーソナルな関係だからこそ、おこりやすい自我状態が私たちにはあるのです。
幼少期から使ってきた人生脚本
私たちは、養育者に養ってもらわないと生きていけない幼少期をサバイブするために、うまく親の関心を引き養育してもらう必要があります。親の在り方を観察・察知し、それにあった子としてふるまってきました。
例えば、支配的な親に対して、従順な子どもでいることが多かったかもしれません。一方で、自由な子どものふるまいをすることで、親の養育的な部分を引き出していたかもしれません。これらは生きていくために7歳くらいまでに身に着けていく術です。あなたはどんな両親に育てられ、どんな子ども時代を過ごしましたか?
親の価値観は絶対でした。これがどんなに偏見にみち、合理的でない考え方でも子どもだったあなたは、それを信じて生きるしかない時代がありました。
「人は信用できない」「国はあなたを搾取するにきまっている」「人間というものは、どんなことが起きようと努力し続けないといけない」「妻とはこうあるべきだ」「夫とはこうあるべきだ」など、もしかしたら、親から引き継いだモットーや思い込みを今も引き継いでいるかもしれません。陥りやすいパターンをだれもが持っているのです。
しかしながら、大人であるあなたは、もう大人として、別の選択肢も考えることができます。
夫婦とはもともとは、全くの赤の他人から関係をスタートし、男女の夫婦ということも多いため、異性であることが一般的です。そもそも全然違うのです。また、自営業でない限りは同じ仕事を持っているわけではなく別々の仕事をしていることも多いので、違う場所で違う時間を過ごし異なる体験を毎日していることが多いです。子どもに対しては、お父さんとして、お母さんとして分業しているため、少しずつ子どもとの距離感も違います。基本的には全く違う生活スタイルをもっていて、価値観も違いながらも、家族というチームを一緒に運営しています。ある意味、夫婦とは、他のチームや組織とは異なる特殊で特別な関係と言えますね。

