「腹膜播種の先進治療」はご存じですか?放置した際に現れる症状も医師が解説!

「腹膜播種の先進治療」はご存じですか?放置した際に現れる症状も医師が解説!

腹膜播種は、がん細胞が腹腔内に散らばり、まるで種をまいたかのように複数の転移巣を作る状態です。進行がんの一形態として知られていますが、近年はがん種や治療法によって長期生存が可能な例も報告されています。今回の記事では、腹膜播種を起こしやすいがんの種類ごとに、標準治療と先進医療の選択肢を詳しく解説します。

福田 滉仁

監修医師:
福田 滉仁(医師)

京都府立医科大学医学部医学科卒業。初期研修修了後、総合病院で呼吸器領域を中心に内科診療に従事し、呼吸器専門医および総合内科専門医を取得。さらに、胸部悪性腫瘍をはじめとする多様ながんの診療経験を積み、がん薬物療法専門医資格も取得している。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器気管支鏡学会気管支鏡専門医。

腹膜播種とは

腹膜播種とは

腹部には、胃や腸などの消化器が収まる腹腔(ふくくう)があり、その内側は腹膜という薄い膜で覆われています。
がんが臓器の最外層である漿膜(しょうまく)まで進展し、そこからがん細胞が腹腔内に散らばると、あちこちに転移巣を形成します。これが腹膜播種です。
原因となる原発がんには、胃・大腸・膵臓などの消化器がんや、卵巣がんなどの婦人科がんが含まれます。
卵巣がんや分化型大腸がんでは、腹膜に目立つ腫瘤(結節)を多数つくるタイプが多く、
一方で膵がんやスキルス胃がんでは、線維化の強いびまん性の広がり方を示す傾向があります。
このように、腹膜播種といっても原発腫瘍の種類によって進行パターンや治療方針、予後は大きく異なります。

がんの種類別|腹膜播種の標準治療

がんの種類別|腹膜播種の標準治療

がん細胞が、直接腹膜に散らばるだけでなく、リンパや血液の流れに乗って腹膜に転移した状態が腹膜播種です。そのため、全身化学療法が治療の軸となりますが、手術を組み合わせることもあります。

胃がん

胃がんの腹膜播種は、はっきりした腫瘤(しこり)を作らず、染み込むように広がるケースが多いのが特徴です。胃がんと診断された際に腹腔鏡検査で胃から離れた部位の腹膜播種が確認されると、手術適応外と判断されることがあります

腹膜播種が広範囲におよび、手術が難しい場合は全身化学療法が標準治療となります。
治療に先立ち、まずHER2の発現を確認し、陽性か陰性かで治療薬を選択します。

HER2陰性の場合、以下の薬剤を組み合わせて治療を行います。

免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)

プラチナ製剤(シスプラチン、オキサリプラチン)

5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン

テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)

HER2陽性の場合、トラスツズマブ(HER2タンパク質に対する抗体)に、シスプラチンとカペシタビン、もしくはシスプラチンとS-1を併用します。

一方で、腹水が多く、経口摂取が困難な場合は、身体への負担が大きく化学療法の実施が難しいことがあります。 化学療法を行う場合は、身体への負担を考慮し、以下のような低強度のレジメンが選択されることがあります。

5-FU/l-LV療法

5-FU持続静注療法

nab-パクリタキセル療法

パクリタキセル療法

ラムシルマブおよびパクリタキセル併用療法

大腸がん

大腸がんでは、診断時にすでに腹膜播種が見つかるケース(同時性腹膜播種)は約4〜5%と報告されています。また、手術後の再発部位として肝転移・肺転移に次いで多く、予後に大きな影響を与えます。

腹膜播種を伴う大腸がんは、ほかの遠隔転移を伴う場合と比較しても予後が悪いことが知られています。しかし、播種巣が限局していて完全切除が可能と判断される場合は、手術を行うことが推奨されます。

一方、播種が広範囲に及ぶ場合は全身化学療法が基本です。
用いられる主な治療には以下のようなものがあります。

細胞障害性抗がん薬(FOLFOX、FOLFIRI など)

分子標的薬(ベバシズマブ、抗EGFR抗体 など)

免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ)

こうした薬剤を、患者さんの全身状態や腫瘍の特徴に応じて組み合わせます。

卵巣がん

卵巣は腹腔内にむき出しの状態で存在しているため、胃や大腸に比べてがん細胞が早期から腹腔内に広がりやすい特徴があります。
腹膜播種した卵巣がんは進行した段階であり、手術と化学療法の併用が選択されます。
初回の治療では、できる限り目にみえる病変を取り切ることを目的とした初回減量手術(PDS:Primary Debulking Surgery)が行われます。
ただし、腹膜播種が広範囲で手術で完全にがんを取り除くことが難しいと判断される場合は、術前化学療法(NACT:Neoadjuvant Chemotherapy)が選択されます。

使用される主な薬剤には以下のようなものがあります。

パクリタキセル

カルボプラチン

加えて、ベバシズマブ(分子標的薬)を併用することもあります。また、がん細胞に遺伝子変異(BRCA変異など)がある場合には、PARP阻害薬による維持療法が検討されることがあります。

膵臓がん

膵臓がんの腹膜播種に対しては、全身化学療法が基本ですが、腹水の影響で治療継続が困難になることもあります。
そのため、腹水のコントロールが治療継続の鍵となり、全身化学療法と腹腔内局所療法を併用する新たなアプローチの研究も進められています。

肝臓がん

肝臓がんが腹膜に播種している場合、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などを中心とした全身化学療法を行います。

配信元: Medical DOC

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