やるべきことを黙々とやる人、市原隼人
市原隼人の華は、トニーのように実直ゆえに強く輝いているのではないだろうか。たぶん、市原はやらなくてはいけないことを黙々とやる人だと思う。セリフもひたすら叩き込み、体もひたすら鍛える。集中するときの集中の仕方がハンパない、そういう人だと思うのだ。素敵俳優・市原隼人。だから彼にはカメラも劇伴もピタリとハマる。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22年)でも回を追うごとに存在感が大きくなったのかもしれない。
「理解なんかしなくていい。書かれた通りに言って、言われたように動いてくれればそれでいいんだ」。シェイクスピアの文学的なセリフが言いづらいと文句を言うモネ(秋元才加)に、久部はこう言っていた。たぶん久部にはトニーのような、覚えろって言われたらとことん覚える人が嬉しいのだろう。
みんな演劇で鍛えられて今がある
ところで現実世界でライサンダーを演じた俳優といえば、22年、日生劇場の『夏の夜の夢』で髙地優吾(SixTONES)。また、84年に近いところで言えば、1992年、日生劇場『野田秀樹の真夏の夜の夢』は舞台を日本に置き換えた物語で、ライサンダーに相当する板前ライ役を堤真一が演じた。ライバル・ディミートリアスに相当する板前デミは唐沢寿明。恋人たちに大竹しのぶ、毬谷友子と、このうえなく豪華なキャストであった。久部が尊敬する蜷川版のライサンダーは、94年に大石継太。蜷川スタジオの中心的俳優で、映像にあまり出ないけれど演劇界では名優である。このときデミトリアスは清水健太郎。95年は大沢たかおがディミートリアスを演じている。大沢、唐沢、堤と彼らが若い頃、演劇で鍛えられて、いまがあるのだ。
ちなみに、人手が足りなくて演劇に参加させられる、スナック・ペログリーズのバーテン・ケントちゃん(松田慎也)は蜷川幸雄の若手俳優の劇団・さいたまネクスト・シアターの一員で、蜷川に鍛えられていた。現在シェイクスピアの『リア王』に出演中。残念ながらケント役ではない。
