アンミカに蹴られる、バイきんぐ西村
久部版のディミートリアスは、お笑いコンビ・コントオブキングスの王子はるお(大水洋介)が演じる。相方の彗星フォルモン(西村瑞樹)はシーシアスとオーベロンの二役。稽古で、パトラ(アンミカ)のアドリブでおしりを蹴られ、笑いものになる役割に、いつもツッコミを担当しているフォルモンは気が進まない。みんなは面白がるし、久部もフォルモンの哀愁に着目していて、こわそうな人が妻の尻に敷かれている意外性がおもしろいと思ってフォルモンを説得する。
最終的に本人も納得し、自らお尻を蹴るように合図をして、協力的になっていく。こうして寄せ集めの演劇専門外な人たちがそれぞれの良さを発揮し、次第に結束を強めていく展開もみんな大好き。こういうのが観たかった。主題歌の「劇上」がかかると早くも泣きそうになった。三谷幸喜のウェルメイドの才が存分に発揮された第3話。やっぱり見続けていれば三谷幸喜ドラマは報われるのだ。マスター(小林薫)やオーナー(シルビア・グラブ)が実は演劇に造詣が深そうなのも、今後に生きてきそうと期待する。

三谷幸喜ドラマは、やっぱり面白い
第3話ではフォルモンとはるおの笑いの生みの苦しみにもフォーカスした。自分たちの笑いに悩んでいた彼らだったが、演劇をきっかけに打開策に気づく。屋上のふたりのやりとりから演劇の稽古へ。フォルモンが覚醒する。やり終えて「おもしろかった?」と久部に聞くと、それに答えず「先に進もう」というやりとり。十分ウェルメイドではあるが、何もかも言葉にし過ぎず、ぎり踏みとどまる美学がある。
おばば(菊地凛子)のアドバイス「同じ道を進むな。同じ道を進んでいる間は、同じところにしかたどりつけない」という言葉には含蓄がある。そして第3話の最後、久部が団子のみたらしとあんこを差し出され、みたらしをとったつもりが、あんこ。譲れない強いこだわりをもった久部がほんの少しだけ違う道を進みはじめた暗示にも見えた。<文/木俣冬>
【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

