京王線の電車内に謎のQRコード「よく分からんPDFに飛ばされてえぐい」 貼った人の法的責任は?

京王線の電車内に謎のQRコード「よく分からんPDFに飛ばされてえぐい」 貼った人の法的責任は?

●偽のQRコード、法的な問題は?

今回のQRコードの正体は不明だが、他人の広告に勝手にQRコードを付けたり、読み込んだ先のページで詐欺に誘導したりするような行為は法的に問題はないのだろうか。

今回のように偽のQRコードを勝手に貼り付ける行為は、その目的や結果によって、いくつかの犯罪が成立する可能性がある。

1. 偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性

他人の広告に無断でQRコードを貼り付ける行為は、広告主や鉄道会社の業務を妨害したとして、偽計業務妨害罪に問われる可能性がある。

「偽計」とは、人を騙したり、勘違いさせたりすることを指す。今回のケースでは、正規の広告の一部であるかのように見せかけてQRコードを貼る行為が、これに当たる可能性がある。

次に「業務妨害」とは。鉄道会社にとっては、安全な運行管理や広告スペースの管理が業務にあたる。また、広告主にとっては、広告を通じた宣伝活動が業務である。

偽のQRコードが貼られたことで、鉄道会社や広告主が問い合わせ対応や撤去作業などに追われ、本来の業務に支障が出た場合、業務妨害と判断される可能性がある。

偽計業務妨害罪の刑罰は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金である。

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●詐欺の可能性も

2. 詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性

もし偽のQRコードが、読み取った人をフィッシングサイトなど、金銭を騙し取るためのサイトに誘導するものだった場合、詐欺罪の成否も問題となる。

詐欺罪は、人を騙して財産を奪うことで成立する犯罪だが、実際に被害者が金銭を騙し取られなくても、詐欺を実行しようとした段階(「実行の着手」という)で詐欺未遂罪が成立することがある。

どの段階で「実行の着手」があったと判断されるか?

実行の着手は、実務上、行為の形式面(構成要件(詐欺罪であれば、「欺く行為」)該当行為やそれに密接に関連する行為が開始されているか)、実質面(構成要件の予定する結果(詐欺罪であれば「財物を交付して損害が発生すること」))の両面から検討される。(「判例講座刑法総論」橋爪隆/立花書房/2025年5月など多数)

近時では、特に特殊詐欺事件の受け子が被害者の家に到着するより前の段階で、詐欺罪の実行の着手が認められたケースもある(最判平成30年3月22日、同令和5年6月20日など)。

今回のケースでは、誘導先のページがどのような内容だったか、また被害者が実際に金銭的な被害を受ける段階にどれだけ近づいていたか等を総合的に考慮し、詐欺未遂罪が成立するかが判断される。

たとえば、個人情報の入力画面や決済手続きの画面に誘導された時点で、詐欺の実行があったと認められる可能性がある。

もちろん、こういった決済などとおよそ関係の無いサイトが表示されるだけである場合には、詐欺未遂罪に問われることはない。

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