映画『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』ウィーン美術史美術館の名画ブリューゲル《バベルの塔》を味わう

《バベルの塔》と3つの特徴

ブリューゲルは生涯に3枚の《バベルの塔》を描いたと考えられています。イタリア旅行で見たコロッセオがモデルとされ、1枚目はイタリア旅行中に制作されましたが、現存しません。残り2枚は「大バベル」「小バベル」と区別され、前者がウィーン美術史美術館に所蔵されています。

1024px-Pieter_Bruegel_the_Elder_-_The_Tower_of_Babel_(Vienna)_-_Google_Art_Project (1)ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》(1563)/ウィーン美術史美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.

作品の主題は、旧約聖書の「創世記」に登場する物語です。天まで届く塔を作ろうとした人間を罰するため、神は、建設中の職人たちの言葉を通じなくしてしまいました。《バベルの塔》は「神の怒り」を表現しているのです。

特徴①最先端の建設風景

ブリューゲルunnamed『バベルの塔』拡大, Public domain, IIP image.

絵をよく見ると、高層建築に必要な巻き上げ機や滑車など、様々な機材が描かれています。塔の各層に取り付けられたクレーンは、当時の建設現場で使用されたものです。ブリューゲルが暮らしていた時期、アントワープは建設ラッシュでした。現場を訪れ、最新の機材や道具、作業方法などをスケッチし、制作に活用したと考えられます。

特徴②細かい筆致

ブリューゲルunnamed (1)『バベルの塔』拡大, Public domain, IIP image.

職人や家畜、帆船、住宅が細かく描き分けられているのも驚きです。労働者の作業の様子だけでなく、洗濯物や料理中の鍋など、人々の日常生活まで伺えます。

特徴③複雑な構造

ブリューゲルunnamed『バベルの塔』拡大, Public domain, IIP image.

塔は8階まで建設中ですが、構造がとても複雑です。どこまで建てようとしているのか分かりません。螺旋状の周歩廊(キリスト教会建築における半円状の通路)は岩山のままで、通行できない場所もあります。

中世においても、《バベルの塔》はステンドグラス、フレスコ、板絵などで表現されてきました。しかしブリューゲルは、それまでにない規模で塔の建設を描き、人間の尊大さや神への愚かな挑戦を風刺的に表現したのです。だからこそ建物の構造も矛盾が多く、「永遠に塔は完成しない」と示唆しているのではないでしょうか。

《バベルの塔》とハプスブルク家

もともと「大バベル」は、当時のスペイン王で、ネーデルラントの統治者フェリーペ2世について、圧政政治を批判していると解釈されていました。一方、「小バベル」にはローマ・カトリック教会への批判があると読まれてきました。

ただ、2枚の《バベルの塔》は、どちらも敬虔なキリスト教徒だったハプスブルク家のコレクションに入っていたため、当時の状況と矛盾します。ブリューゲルが枢機卿の支援を受けていたことも踏まえると、その意図はなかったとも考えられるのです。

そこで《バベルの塔》に「不可能を可能にする」という意味を見出す研究者もいます。ユートピアを建設するため、人々は挑戦します。しかし、神の目には虚しく、傲慢な行為と映るため、人間は懲罰を受けるのです。絵画で教訓を共有する。当時の人々が画家に求めていた役割は、ここにあったのではないでしょうか。

配信元: イロハニアート

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