不倫相手が保育園の先生と知り衝撃を受けた彩乃。しかし夫は「彼女は悪くない」と庇い、噂を伝えても耳を貸さない。むしろ来年までに別れると曖昧な約束をし、彩乃を置き去りにした。
涙とヤケ酒の夜
深夜のリビング。沈黙に私の鼻を啜る音だけが虚しく響き渡るも、その涙に寄り添う“誰か”はいなかった。
夫の不倫、しかも相手は子どもたちが通う保育園の先生……。その事実に衝撃を受けた上で、不倫相手をさもまともな様に扱って庇う夫の姿に、私はもはや怒りの矛先さえ見失っていた。
「彼女は何も悪くないし、俺は彼女が好きだ」
「あの子はそんな子じゃないよ。良い子なんだよ」
ヤケ酒を再開して記憶や感情を誤魔化そうとすればするほど、夫からの告白が思い起こされては一言一言が胸を鋭く突いてきた。痛みを誤魔化そうと、お酒を理由に結婚指輪を外して壁に投げつけたり、夫の写る写真を勢いよく伏せたりしてみた。けれど、荒っぽい行動をしている自分に嫌悪感を抱いては虚しさが募るばかりで、それがさらに涙を流させた。枯れ果てるほどの涙を流し、自暴自棄に当たり散らしたのに一向に眠ることはできなかった。
「君と別れる」夫の冷酷な答え
日が出始める頃、呼吸が落ち着いたタイミングで考える。「やっぱり納得できない」と。
こんな状況でも私は夫を含めた家族をかけがえのない存在だと思っている。夫は10代後半から連れ添い、長くて辛かった不妊治療の時期も支えてもらった。もし夫の話すように不倫相手が脅しているのなら、私たち家族で受けて立てばいい。どこに移り住んだっていいと思った。でももし、それは建前で不倫を続けるための口実だったら?あわよくば2人で逃避行しようとしていたら?……。湧き上がる不安に、私の決意は揺さぶられていた。
「ママー、めぇ、あかいのどーしたの?」
朝食を摂るリビング。娘の結の鋭さを誤魔化すことができないほど、一晩中泣いた目は腫れて充血していた。
「んん?昨日、ちょっと怖い夢見てママ泣いちゃったの〜」
明るく振る舞いながら子どもたちに答えるも、夫の反応はなかった。昨晩のこともあって、朝のリビングの雰囲気は異様に静かで冷たい気がした。いつも子どもたちと積極的にやりとりする夫、今朝は必要最低限のやりとりのみでしきりにスマホのネットニュースをスワイプしている。私や昨晩の話題から距離を取るようなズルさを感じてモヤついた。唯一の救いは、普段通りで元気な子どもたちの姿だった。
保育園に送り出す直前。出社準備を済ませてソファーに黙って座る夫に我慢ならず、私は子どもに聞こえないよう質問した。
「……ねぇ。昨日の話だけど、女と私たち家族、どっちと別れるつもりなの?」
夫は眉をピクッと反応させつつ、こちらに顔を向けずに答えた。
「……君と別れる」
端的なその答えには、不倫相手を選んだこと、そして私を切り捨てる意思が込められていた。深い哀しみとともに激しい怒りが込み上げた。

