小学校受験のホラー①:「みんな」という存在
まずひとつ目のホラーは、「みんな」という得体の知れない存在です。この「みんな」という名の実体のない幽霊のような存在が、一番母親を追い詰める存在なんです。お受験戦争真っ只中にいると、もう本当によく耳にするんですが、「みんなはもう毎日3時間ペーパーをやってるらしい」とか「みんな夏休みは隙間なく夏期講習に行ってるらしい」とか、「みんな個人の先生プラス大手塾の掛け持ちをしている」とか。
そんな「みんな」情報が飛び交っています。
さらに驚いたのは、ある特定の小学校を受験する子向けのキッズ美容院があり、「◯◯小学校受験する子は、みんなそこに行っている」と言われるほどに。
さすがにそのときは、「そんな“みんな”っていないんじゃない?」と思ってはいました。でも結局、私自身もその「みんな」という言葉に負けて、今となっては必要なかったと思うような講座を受講させたり、同じようなお絵描きをやたらやらせてしまったり。
今振り返ると、あの頃の私は少し異常でした。けれど、「みんな」という見えない圧力に踊らされ、どこにもいない「みんな」の幻影を追っていたのが、まさに「お受験戦争」の現実だったのです。
小学校受験ホラー②:「行動観察」という謎の科目
ふたつ目のホラーは「行動観察」という謎の科目です。おそらく、小学校受験を経験したことがない方にとっては、「え、なにそれ?」という感じかもしれません。小学校受験には、筆記試験や面接、体操などのわかりやすい科目のほかに、「行動観察」という名の試験があります。この科目をわかりやすく言うと、数人のグループに分けられた子どもたちが自由に遊ぶ様子を、先生が観察して採点するというもの。そこで見られるのは、指示を聞く力や、友達と協力する姿勢、我慢する力、リーダーシップなど、いわゆる「非認知能力」と呼ばれる部分です。
……と、ここまで聞くと「いい試験じゃない?」と思うかもしれません。実際に、その子の本質を見極める方法として、実施する学校も増えているそうです。でも、行きすぎた「訓練」の世界を目の当たりにすると、ちょっとホラーなんです。
例えば、昔話の絵を描くというお題がだされると、どこからともなく訓練された子どもが「桃太郎がいいんじゃない?」と言い出して。すると、もうひとりの子が「浦島太郎がいいんじゃない? だって海の生物がたくさん出てくるから」ってまるで演劇のセリフみたいに言うんです。
そうすると周りの子が「いいね、そうだね」って賛同する。もちろんそれも練習しているから「そうだね」って言えるんです。
さらに驚くのはその後。最初に「桃太郎」と言った子が、みんなが賛同した瞬間に、「僕もいいと思う。譲るよー!」って言うんです。
……譲るよ?
就学前の子どもがそんなセリフ、自然には言わないですよね。幼児教室の参観でその光景を見たとき、私はさすがに「ホラーだ」と思いました。
本来、この「行動観察」という科目の目的は、子どもが持つ「その子らしさ」を見極めること。けれど、親たちはそこを逆手にとって、「いい子」に見えるための演技を、徹底的に訓練してしまう。
「えっ?」とは思っていても、私もやっちゃっていたんですよ。
「あそこは譲りなさい」とか、「自分の意見を言うときはコンパクトにわかりやすく言いなさい」とか。アナウンサーをしていた当時、コンパクトにわかりやすく言うことなんて自分自身もできないのに、あれは完全に親の性(さが)でした。
あの行動観察という名のホラーは、今思い出しても少しぞっとします。

