
レオ・レオーニとは? 絵本の「魔法」を生み出した多様な顔
レオ・レオーニ(ポートレート)
「レオ・レオーニ」と聞いて、まず思い浮かべるのは愛らしい絵本作品でしょう。しかし彼は、絵本作家としてデビューする以前から、グラフィックデザイナー、アートディレクター、画家、彫刻家としても活躍した、まさに「創造の巨人」でした。
1910年、オランダのユダヤ系家庭に生まれたレオーニは、幼少期からイタリアやアメリカを転々としながら、豊かなヨーロッパ文化を吸収しました。イタリアでは、ブルーノ・ムナーリといった先進的なアーティストたちと交流し、その才能を磨きます。差別的な人種法を機にアメリカへ渡ってからは、アートディレクターとしてMoMAや「フォーチュン」誌の仕事を手がけ、数々の企業広告を成功に導きました。
そして50歳を目前にした1959年、初の絵本『あおくんときいろちゃん』を発表し、絵本作家として新たなキャリアをスタートさせます。後半生はイタリアとアメリカを行き来しながら、絵本、絵画、彫刻と、ジャンルにとらわれない旺盛な創作活動を続けました。
レオーニの作品は、自己のアイデンティティ、平和への願い、アーティストとしての誇りなど、彼が生涯考え続けたテーマが寓話的に織り込まれています。絵本の主人公たちが、まるでレオーニ自身の分身のように生き生きと描かれているのは、そうした深いメッセージが込められているからかもしれません。

『スイミー』の作者レオーニが絵本で伝えた「自分らしさ」とは?代表作から読み解く表現とメッセージ
『スイミー』をはじめ、数々の名作を生み出した絵本界の巨匠レオ・レオーニ(1910〜1999)。生涯で手がけた絵本の数は、なんと40冊近くにのぼります。日本では小学校の教科書にも掲載され、何十年もの間、…
展覧会「レオ・レオーニと仲間たち」の5つの見どころ
本展は、レオーニの生涯を5つの章で辿りながら、彼の多彩な才能と、彼を取り巻く芸術家たちの影響関係を総合的に紹介します。
第1章 アムステルダム シャガールのある家
オペラ歌手の母、著名な美術品コレクターの親戚など、レオーニは幼い頃から質の高い芸術に囲まれて育ちました。この章では、家族写真や当時の参考作品を通じて、彼の芸術的感性の源流を探ります。豊かな芸術的土壌が、いかに彼の創造性を育んだのか、その原点に触れることができます。
第2章 ジェノヴァとミラノの間で 未来派と広告メディアでの活動
《製菓会社新聞広告 ミラノからヴェネツィアへ直行》1935年頃 板橋区立美術館蔵(Gift of the Leo Lionni Family, 2021)
イタリアでグラフィックデザイナーとして活躍していたレオーニは、ブルーノ・ムナーリやソール・スタインバーグといった当時の最先端のアーティストたちと深く交流しました。彼らがどのように互いに影響し合い、20世紀初頭のイタリアの芸術と広告メディアを牽引したのか、当時の貴重な作品から垣間見ることができます。特に、レオーニが手掛けた《製菓会社新聞広告 ミラノからヴェネツィアへ直行》1935年頃 のような作品は、その後のデザイン界に与えた影響の大きさを物語っています。
第3章 ニューヨーク アートディレクター時代
《ニューヨーク近代美術館 開館25周年記念ポスター》1954年 板橋区立美術館蔵(Gift of the Leo Lionni Family, 2021)
《ユネスコ ポスター World on view(世界を見わたす)》1952年 板橋区立美術館蔵(Gift of the Leo Lionni Family, 2021)
ユダヤ系であったレオーニは、イタリアの人種法を避けてアメリカへ渡ります。ニューヨークでは、雑誌「フォーチュン」のアートディレクターとして名を馳せ、MoMAやCCA、オリヴェッティなどの企業広告を数多く手がけました。彼の卓越したデザインセンスは、当時のアメリカのコマーシャルアート界に大きな影響を与えました。この章では、アートディレクターとしての手腕が光る《ニューヨーク近代美術館 開館25周年記念ポスター》1954年 や《ユネスコ ポスター World on view(世界を見わたす)》1952年 といった作品に加え、その傍らで制作された政治風刺画や「想像肖像」シリーズのような絵画作品も紹介され、彼の多様な表現活動に触れることができます。
《想像肖像シリーズ(金髪の婦人)》1963年頃 板橋区立美術館蔵(Gift of the Leo Lionni Family, 2021)
特に《想像肖像シリーズ(金髪の婦人)》1963年頃 は、レオーニの絵画表現の奥深さを感じさせる作品です。
第4章 イタリアでの制作
《植物学》1991年 Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family
キャリアの絶頂期でアートディレクターを引退したレオーニは、イタリアへ帰国し、自宅兼アトリエで絵本制作やファインアートに専念します。
油彩画からブロンズ彫刻、さらには学術書形式の「平行植物」シリーズ、軽やかな「空気」シリーズ、そして80歳を過ぎてから取り組んだ「黒いテーブル」シリーズまで、彼の尽きることのない創造性を象徴する作品群が展示されます。特に《植物学》1991年 や《プロジェクト:幻想の庭》1978年 は、レオーニの芸術的な探求の深さを感じさせるでしょう。
《プロジェクト:幻想の庭》1978年 板橋区立美術館蔵(Gift of the Leo Lionni Family, 2021)
第5章 レオの絵本
『フレデリック』原画 1967年 Frederick ⓒ 1967, renewed 1995 by Leo Lionni/Pantheon Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family
『マシューのゆめ』原画 1991年 Matthewʼs Dream ⓒ 1991 by Leo Lionni/Knopf Works by Leo Lionni, On Loan By The Lionni Family
最終章では、30年以上にわたるレオーニの絵本制作の軌跡をたどります。『フレデリック』や『マシューのゆめ』など、彼の代表作の原画が展示され、絵本ごとに異なる多様な技法や表現方法を間近で鑑賞できます。レオーニが絵本に込めたメッセージや、登場するキャラクターたちの愛らしさに、改めて魅了されることでしょう。
