胃がんを発症すると空腹時に胃痛を感じる原因
胃がんによる潰瘍形成
空腹時に胃痛を感じる原因として、胃がんそのものが直接痛みを引き起こしているというよりは、がんによって生じた二次的な状態が影響している可能性が考えられます。進行した胃がんの表面は、正常な粘膜とは異なり、もろく崩れやすい状態になることがあります。その結果、がんの中心部がえぐれて「潰瘍(かいよう)」という、粘膜が深く傷ついた状態を形成することもあるのです。
空腹時は、食事を消化するための胃酸が胃の中に多く分泌されている状態です。この胃酸が、がんによってできた潰瘍の部分を直接刺激することで、しくしくとした痛みや焼けるような痛みとして感じられることがあります。病気としては胃がんが背景にありますが、症状のメカニズムとしては胃潰瘍に近いと言えるかもしれません。このような症状が出た場合は、すでにがんがある程度進行している可能性も考えられるため、速やかに消化器内科を受診し、胃カメラなどの精密検査を受けることが推奨されます。
がんの増大による胃の機能低下
がんが大きくなること自体が、胃の不調の原因となることがあります。腫瘍が増大すると、胃の正常な運動(食べ物を混ぜたり、十二指腸へ送ったりする動き)が妨げられたり、食べ物の通り道が物理的に狭くなったりします。このため、食後の胃もたれや、すぐに満腹感を得てしまう「早期飽満感」、吐き気といった症状が引き起こされやすくなります。このような胃の機能低下による全般的な不快感が、空腹時の痛みとして感じられる、あるいは痛みを増強させる一因となる可能性も考えられます。
がんの発生部位による胃酸の逆流
胃がんが胃の入り口(噴門部)付近にできた場合、胃と食道を隔てる筋肉の働きを妨げることがあります。この機能が低下すると、胃の内容物、特に強い酸性である胃酸が食道へ逆流しやすくなるため注意が必要です。これにより、胸やけや、胸のあたりが焼けるような痛みが生じることがあります。この不快感を、みぞおちや胃の痛みとして感じることもあり、特に胃が空っぽで胃酸が濃い状態の時に症状が現れやすくなる可能性があります。
胃がんの前兆となる初期症状
胃もたれ
胃がんの初期段階では、自覚症状がほとんどないか、あっても非常に軽い場合が多いとされています。もし症状が現れるとしても、「なんとなく胃の調子が悪い」「食後に胃がもたれる」といった、日常的によく経験するような胃の不快感であることが少なくありません。これらの症状は、胃炎や胃潰瘍など他の病気でもよく見られるため、胃がん特有のサインとは言えません。ご自身で症状を和らげるために市販の胃薬を服用することもあるかと思いますが、それは一時的な対処に過ぎず、根本的な解決にはなりません。もし胃の不快感やみぞおちのあたりの違和感が続くようであれば、安易に考えず、消化器内科など専門の医療機関を受診することが重要です。
胸焼け・曖気
胸やけや、酸っぱい液体が上がってくるような感じ(呑酸)、頻繁に出る曖気(げっぷ)も、胃がんの症状として現れることがあります。これらは、がんが胃の入り口(噴門部)の近くにできた場合に、胃の機能が低下したり、胃酸が食道へ逆流しやすくなったりすることで起こると考えられます。これらは「逆流性食道炎」と非常によく似ている症状です。症状を和らげるために生活習慣として、食後すぐに横にならない、刺激物を避けることなども大切です。また、症状の原因が何であるかを正確に突き止めることが最も重要と言えます。特に、これまで経験したことのないような胸やけやげっぷが続く場合は、一度、精密検査を受けられる医療機関にご相談ください。
悪心・嘔吐
はっきりとした理由がないのに、食欲がわかない状態が続いたり、吐き気や嘔吐を繰り返したりする場合も注意が必要です。がんが大きくなることで、胃の動きが悪くなったり、食べ物の通り道が狭くなったりすることが原因と考えられます。特に、食事の量が変わらないのに、すぐにお腹がいっぱいになる感じ(早期飽満感)がする場合も、胃がんのサインである可能性があります。これらの症状に対するご自身での対処法は、根本的な治療にはつながりません。食事をとることが難しくなると、体力や栄養状態の低下にもつながります。食欲不振や吐き気が続く場合は、我慢せずに早めに消化器内科や内科を受診してください。
黒色便
便が黒っぽく、まるで海苔の佃煮やイカ墨のようになる「黒色便(タール便)」は、食道や胃、十二指腸など、上部消化管からの出血を示唆する重要なサインです。胃がんの表面がもろくなって出血すると、血液が胃酸と反応して黒く変化し、便に混じって排出されることがあります。黒色便が出た場合は、体内で出血が起きている可能性が高いため、緊急性が高い状態と考えられます。すぐにできる処置は特にありませんので、症状に気づいたら、様子を見ずに直ちに医療機関を受診してください。出血が続くと貧血が進行し、めまいや立ちくらみ、動悸といった症状が現れることもあります。
体重減少
ダイエットや運動をしていないにもかかわらず、数ヶ月の間に体重が数キログラム以上減少した場合も、注意が必要です。これは、がん細胞が体の栄養を消費してしまったり、食欲不振や消化吸収の能力が低下したりすることで起こると考えられています。体重減少は、がんが進行している場合に見られることがある症状の一つです。もちろん、他の病気やストレスなどが原因である可能性もありますが、原因不明の体重減少は体からの重要なメッセージと捉えるべきです。このような変化に気づいたら、内科や消化器内科を受診し、医師に相談することをお勧めします。

