■ふかした里芋を出してきたおばあちゃん。恥ずかしくて、ありもしない「プリン」を冷蔵庫で探した

小学校から帰るとおばあちゃんが家にいて、枇杷さんの世話をしてくれた。今回紹介する『おばあちゃんのおやつの話』は、枇杷さんが初めて友達を家に呼んだときのエピソードだ。当時、友達の家に遊びに行くと手作りドーナツやポテトチップスなど、普段食べないような魅力的なお菓子が並ぶことに驚かされていた、枇杷さん。

当日「おやつ用意しといてね」とお願いし、おばあちゃんが何を準備しているかドキドキしていた。けれど、おばあちゃんが出したのは里芋をふかした「きぬかつぎ」だった。子どもながらに羞恥でいっぱいになった枇杷さんは「あれ?プリンあったのにないな?」と、ありもしないプリンを探すフリをした。

友達の前で見栄を張りたかった枇杷さんとその気持ちを知ったおばあちゃん。蒸したての里芋に塩をつけて食べるきぬかつぎはおいしかったし、友達にも好評だった。けれど、枇杷さんは「プリンがよかった…」とおばあちゃんに言った。あのとき、わがままを言って𠮟られるかもしれないと思った枇杷さん。しかし、おばあちゃんは枇杷さんの気持ちを優先して叱ることはなかった。「叱られることも多かったけれど、一緒にいるとほっとする人でした。今でもふとした瞬間に会いたくなる、大切な存在です」と、おばあちゃんのことを振り返る。

本作には 「当時のエピソードや感情をよく覚えているなあ」という読者の声も届く。一体どのようにおばあちゃんとのエピソードを振り返ったのだろう。「たとえば、こたつでうたた寝していた情景を思い出すと、そこから『あんなこともあったな』『こんな気持ちだったな』と、記憶が少しずつ出てくるんです。なかなか出てこないことの方が多いのですが、ポロポロこぼれるように出てくるときもあって。そうした小さな記憶をたどりながら描いています。子どものころにはうまく言葉にできなかった寂しさやうれしさを漫画という形で表現できてうれしいです」と枇杷さん。

特に子どものころに感じていた感情が繊細に描かれているのがポイント。読者側も幼かったときの気持ちが引き出され、「うちもおばあちゃん子だったので友達の家に行ったらロールケーキが出て、びっくりしたのを思い出しました」など、不思議と自分の持つ懐かしい記憶と重なり合う。
描くうえで、特に気をつけたのは「『うれしい』『悲しい』といった感情を、そのまま言葉で描かないようにしたこと」だとか。「子どものころって感情をうまく言葉にできないことが多かったと思うので、その代わりに表情やしぐさや全体の空気感で伝えられるよう意識しています」。あのころ伝えられなかった気持ちも含め、おばあちゃんのことを描いている。
紹介する作品は、書籍『ただいま。おばあちゃん』の一作。そのほかのお気に入りを聞くと、「『昼寝のあと』というお話が特に印象に残っています」と言う。「昼寝から夕方に目を覚ましたときの、あのなんとも言えない寂しさを描いた作品です。少し怖いくらいの寂しさで。当時の気持ちを自分なりに形にできたように感じていて描きながらその記憶に浸っていました」
いろいろなエピソードが詰まった『ただいま。おばあちゃん』を読んで「泣いた」という声も多い。「制作するなかで、大人になった今だからこそ感じる祖母への感謝や『心配ばかりかけてごめんね』という気持ちを込めました。本になってあらためて思うのは、祖母もまた私のことを本当に大切に思ってくれていて、たくさんの愛をもらっていたんだなということです」
枇杷さんはこのほか、介護生活と並行して描いていた『余命300日の毒親』も発売中。「少しでも介護による孤独がなくなってほしい、そんな気持ちをこめて描きました。そして、主人公ヒトミのお話とは別に、この本だからこそ描いた私の介護エッセイも載せています。ぜひ読んでいただけたらうれしいです」と、制作に込めた思いを話す。
取材協力:枇杷かな子(@kanakobiwa)
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