
「いつも家族の中心にいて、ほほえみをくれた実家の大型犬。ある日、先が短いと知らされて――」一人暮らしをしていた漫画家つづ井(@wacchoichoi)さんのもとに知らせが入り、老犬と過ごすために仕事を辞めて実家へ帰った。老犬を介護し、最期を看取るまでの温かい日々を描く「老犬とつづ井」(文藝春秋)を紹介するとともに、つづ井さんに本作に秘めた想いを聞いた。
■愛犬のいない日々を、少しずつ受け入れていく時間



老犬となった愛犬・Aを介護し、最期を見送るまでの日々を描いた本作「老犬とつづ井」、作者のつづ井さんは「私にできることは全部させてもらえた」と語る。後悔はなかったが、看取ったあともしばらくは涙が止まらなかったという。
「Aの介護をするために地元へ戻りました。若いころとは違い、穏やかで少し切ない時間でした。Aを看取ったあと、その日々を絵日記として残したいと思っていたとき、編集さんに声をかけていただいたのがきっかけです」とつづ井さん。
描くうえで意識したのは「Aの気持ちを代弁しないこと」と「感傷的になりすぎないこと」で、Aを都合よく語らせるのではなく、そのときの出来事や感情をできるだけフラットに描くよう努めたという。
さらに「思い出を絵にする過程で、悲しいだけだった気持ちが少しずつ変わっていきました。Aがもういないことを受け入れるための大切な作業だったと思います」と振り返る。
つづ井さんにとってAは「こんなにお互いの気持ちがわからないいきものと暮らせるんだ」という気づきをくれた存在。「自分とは違う存在と時間を共有し、まれに心が通じたように感じる瞬間の尊さを教えてくれました」と語る。
作品ではあえて、終末期の痛々しい姿は描かず、穏やかで幸せな日常に焦点をあてた。言葉を交わせなくても伝わる想い…家族だからこそ感じ取れる温かな日々が丁寧に綴られている。
「裸一貫!つづ井さん」や「腐女子のつづ井さん」とは異なる静かな優しさに満ちた本作で、悲しみの先にある愛と希望を感じてほしい。
取材協力:つづ井(@wacchoichoi)

