長野県の田舎町で1人暮らしをする89歳の母は、昨年の夏、手首の骨折入院をきっかけに軽度の認知症がわかりました。退院後の生活を案じ、隣町に住む兄が手続きをして週2回のデイサービスを受けられることになりましたが、母は「絶対に行かない!」とかたくなに拒否し、施設のお迎えも追い返していました。この半年で母に起こった心の変化についてお話しします。
デイサービスのお迎えを追い返す母
デイサービス(利用者が自宅で自立した日常生活を送れるよう、食事や入浴などの支援が中心の介護サービス)では入浴と食事ができるので、手首がまだ不安定な状態で退院する母のことを考えると、週2回だけでもこうして自治体の福祉サービスが受けられることは、とてもありがたいことでした。
退院を前に母は兄と一緒にケアマネジャーさんの案内で町内にある2つのデイサービス施設を見学。自分で通所する施設を決め、申込書も自分でサインと押印をしたそうです。
ところが母はそんなことも忘れたように「私は自分で何でもできる。そんな年寄りばかりの所に絶対に行かない!」と言って譲らず、お迎えが来るたびに追い返していました。
ケアマネジャーさんによると、認知症の高齢者は環境の変化に敏感で、母のように最初は拒絶する人が多いのだそうです。それでも、寒くなれば温かい施設でお風呂に入れるだけでもありがたいと通い始めるケースもあるらしく、母の気持ちを尊重しながら「長い目で見守りましょう」と言ってくれました。
通い始めても最初は不満ばかり
神奈川県に住む私は、家族の世話や仕事があるため、頻繁には帰省できません。身の回りのサポートは近くに住む兄に頼り、私は毎週電話をかけて母の話し相手になったり、必要なものを送ったりしています。
電話の向こうの母は、デイサービスについて「あんなところ、行きたくない」「知らない年寄りと話してもおもしろくない」と当初は文句ばかりで、断固拒否しているようでした。それでも施設の送迎車は決まった曜日に根気強く来てくれていたようで、1カ月ほどすると母の気が向いたときには行く日もあったようです。
そんなときは、電話で「よかったね、家で退屈しているよりいいでしょ?」と母の気持ちが上がるような声掛けをしてみましたが、「行っても、知らない年寄りが座っているだけで、おもしろくない。お風呂だけ入って帰ってきた」と、昼食も断り午前中のうちに帰してもらったよう。「それでも、お風呂に入れば気持ちいいでしょ?」とたしなめると「自分で好きに入るのと違って、『さあお湯につかりましょう』『洗いましょう』『出ましょう』と追い立てられて、ゆっくりできない」と不満たっぷりでした。

