「乳がんが骨転移した場合の余命」はどれくらいかご存知ですか?治療法も医師が解説!

「乳がんが骨転移した場合の余命」はどれくらいかご存知ですか?治療法も医師が解説!

乳がんは女性において頻度の高いがんの一つであり、早期発見・早期治療が進む一方で、進行するとほかの臓器に転移することがあります。骨は乳がんの最も一般的な転移部位であり、進行乳がん患者さんの約70%に骨転移が認められます 1)。患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与える可能性があります。この記事では、乳がんの骨転移について、そのメカニズムから症状、治療法、そして患者さんが知っておくべき注意点まで、詳しく解説します。

石橋 祐貴

監修医師:
石橋 祐貴(医師)

奈良県立医科大学卒業後、東京大学整形外科教室に入局。東京大学医学部附属病院、都立駒込病院、自治医科大学附属さいたま医療センターに勤務し、主に整形外科の腫瘍領域である骨軟部腫瘍および骨転移の診療に従事。日本整形外科学会整形外科専門医、運動器リハビリテーション医、がん治療認定医、認定骨軟部腫瘍医、緩和ケア研修会修了医。


・診療科目
整形外科全般、がん骨転移、骨軟部腫瘍領域、緩和ケア領域など

乳がんの骨転移とは?

乳がんの骨転移とは?

乳がんの骨転移とは、乳がんの細胞が血液やリンパの流れに乗って骨に移動し、そこで増殖する状態を指します。

乳がんが骨に転移するメカニズム

乳がん細胞が骨に転移するメカニズムは複雑ですが、主に以下のステップで進行すると考えられています。2.3)

がん細胞の遊離
原発巣である乳房から、がん細胞が剥がれ落ちます。 血管・リンパ管への侵入
遊離したがん細胞が、近くの血管やリンパ管に侵入します。 血流・リンパ流に乗って移動
がん細胞は血流やリンパ流に乗って全身を巡ります。 骨への定着
骨の内部には、がん細胞が定着しやすい微小環境(ニッチ)が存在すると考えられています。特に、骨の代謝に関わる骨芽細胞や破骨細胞が分泌するサイトカインなどが、がん細胞の増殖を助けるといわれています。 骨での増殖と骨破壊/形成
骨に定着したがん細胞は増殖し、周囲の骨を破壊したり(溶骨性病変)、異常な骨を形成したり(造骨性病変)、あるいはその両方を引き起こしたりします。

乳がんで骨転移しやすい部位

乳がんが骨転移しやすい部位には特定の傾向があります。主に、血流が豊富な体幹の骨に転移しやすいとされています。

脊椎(背骨)
頻度が高く、痛みや神経症状の原因となることがあります。 骨盤
股関節周辺の痛みなどを引き起こすことがあります。 肋骨
呼吸時の痛みや、触れると痛むなどの症状が出ることがあります。 大腿骨(太ももの骨)
特に上部(股関節に近い部分)に転移しやすく、病的骨折のリスクが高まります。 上腕骨(腕の骨)
肩に近い部分に転移しやすく、腕の痛みや挙上困難などを引き起こすことがあります。

乳がんが骨転移した場合の症状

骨転移の症状は、転移した部位や病変の進行度によって異なりますが、代表的なものには以下のようなものがあります。

痛み

一般的な症状です。初期は鈍い痛みや違和感程度ですが、進行すると持続的な強い痛みになることがあります。夜間や安静時に痛みが強くなることも特徴です。

病的骨折

骨転移により骨が脆弱になり、転倒や軽い外力でも骨折しやすくなります。これを病的骨折と呼び、強い痛みや機能障害を引き起こします。

神経症状

脊椎に転移した場合、脊髄や神経根が圧迫され、手足のしびれ、麻痺、排尿・排便障害などの神経症状が出ることがあります。

高カルシウム血症

骨が破壊されることで血液中のカルシウム濃度が上昇し、倦怠感、吐き気、意識障害などの症状が現れることがあります。重症化すると命に関わることもあります。

骨髄抑制

骨髄に転移が広がることで、血液を作る機能が低下し、貧血、白血球減少(感染しやすくなる)、血小板減少(出血しやすくなる)などが起こることがあります。

骨転移した乳がんのステージと余命

骨転移した乳がんのステージと余命

乳がんの骨転移は、がんの進行度を示すステージ分類において、一般的に遠隔転移があるステージIV(ステージ4)に分類されます。

骨転移がある乳がんのステージ

乳がんは、がんの大きさ(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)の組み合わせでステージが決定されます。骨転移は遠隔転移(M1)に該当するため、骨転移が確認された時点でステージIVと診断されます。4)

乳がんが骨転移した場合の余命

骨転移がある乳がんの余命は、一概に断定することはできません。患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なるためです。余命に影響を与える主な要因としては、以下のようなものが挙げられます。4)

がんのサブタイプ
ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブなど、乳がんの性質によって治療への反応性が異なり、予後にも影響します。 これまでの治療歴と効果
過去にどのような治療を受け、その効果がどうだったかによって、今後の治療選択肢や予後が変わります。 全身状態(パフォーマンスステータス)
患者さんの体力、活動能力、合併症の有無なども、治療の選択肢や予後に影響します。 治療への反応性
治療が奏功し、がんの進行が抑えられている期間が長いほど、予後は良好となる傾向があります。

近年、乳がんの治療は目覚ましく進歩しており、骨転移があっても長期にわたり病状をコントロールし、良好なQOLを維持できる患者さんが増えています。

配信元: Medical DOC

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